No.0912
かりゅうどとつま
狩人と妻

放送回:0574-B  放送日:1986年11月15日(昭和61年11月15日)
演出:芝山努  文芸:沖島勲  美術:門野真理子  作画:飯田ひろよし
鹿児島県 ) 18759hit
夫を待ち焦がれる妻の想いはタライの水もお湯になる

昔々、人里はなれた山腹に大層仲の良い狩人と妻が住んでおりました。狩人は腕がよく、山に入れば必ず獲物を捕ってきました。妻はそれを町で売り、米を買って生計を立てておりました。夫婦は人がうらやむほどの仲の良さ。狩人が家に帰ると妻は毎日盥の湯で足をゆすいであげました。

普段はそう遠くない山で狩りをしていましたが獲物が少なくなり、山一つ隔てた松山まで足を伸ばしたときのことです。途中のごりざかのあたりで白い狐を見つけます。足を伸ばした甲斐があったと早速弓を引いた狩人でしたが、初めて射損じてしまい、狐を逃してしまいます。

次の日その狐を仕留めてやろうと松山に向かった狩人でしたが、今度は雨に降られ、そこにあった小屋で雨宿りさせてもらうことにしました。驚いたことに小屋の中には今まで見たこともないような美しい女がいたのです。親切にもてなされ、気持ちよく勧められるまま酒を重ねた狩人は寝込んでしまい、その日、妻と一緒になってから初めて家を開けたのでした。

翌朝早く家に帰った狩人を、妻は寝ないで待っておりました。いつものようにたらいで足をゆすごうとしましたが、湯がありません。薪が朝霜で湿り、火が使えなかったのです。水の冷たさに狩人は腹を立てたのか、そのまま寝てしまいました。女の事が気になって仕方がない狩人は、日が昇ってからまた松山へ出掛け、それからというもの毎夜通ってはそっと朝家に帰るという日が続くようになりました。

ある日のこといつものように明け方狩人が家に帰ってくると、妻は湯を沸かして狩人を待っていました。次の日も嫌な顔一つせず湯を沸かし笑顔で世話をしてくれるのです。狩人は火の気もないのになぜ湯を沸かせるのか不思議で、女のところいても心に引っかかります。狩人は、妻がどのように湯を沸かすのか確かめるため、その次の日女のところへ出掛けるふりをして家の外から中の様子を窺うことにしました。

月明かりの中で板間に横たわった妻は、たらいを胸の上に載せ、待ち焦がれる胸の火で湯を沸かしていたのでした。それを見た狩人は改心し、それからは女のところへもいかず、狩りに専念し夫婦円満に暮らしたそうです。

(投稿者: みけねけ 投稿日時 2011-10-31 0:29 )


ナレーション常田富士男
出典下野敏見(未来社刊)より
出典詳細屋久島の民話 第二集(日本の民話38),下野敏見,未来社,1965年02月25日,原題「狩人と妻」,採録地「上屋久町楠川」,話者「三角ナセ」
場所について楠川エリア(地図は適当)
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※掲載情報は 2011/10/31 0:48 時点のものです。内容(あらすじ・地図情報・その他)が変更になる場合もありますので、あらかじめご了承ください。
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コメント一覧
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Perenna  投稿日時 2021/2/4 23:00
この昔話と似たような話が、角川書店の「民衆の笑い話・日本の民話11」にも収録されています。
「男と女の仲・その2 胸であずき」という題名です。
「かかがあるのに、山向こうの女にほれた男がいた。毎夜、こっそり家を出ては、明け方近くなって、家へ帰って来る。男がもどると、かかはきまって、夫の好きなうであずきを用意して待っておる。」という書き出しで始まっています。
この話では、妻はせつないやら悔しいやら悲しいやらで胸が火のように燃えるので、茶碗にあずきを入れてそれを胸に載せて、
七里松山 五里坂どころ
上の空では 通われぬ
わしが胸のうちは 焦がれて燃える
煙を出さねば 人は知らぬ
と歌って、あずきを煮ていたそうです。
巻末の参考資料には未来社の「屋久島の民話」が出ています。
おそらく清水真弓(辺見じゅん)が、下野敏見氏の著作をもとにして改作したのではないでしょうか?
ゲスト  投稿日時 2013/7/10 17:53
日本の民話 屋久島篇 第二集 下野敏見編に載っていました。
nami  投稿日時 2013/3/4 22:04 | 最終変更
原典はおそらく伊勢物語第二十三段『筒井筒』の後半の「高安の女」の部分だと思います。

それが変形したものが大和物語の第百四十九段と考えられており、大和物語のお話の中に女が胸の火で湯を沸かすエピソードが出てきます。

同種のお話が全国に(たとえばダイダラボッチやアマノジャクの伝説のように)点在しているのかは不明ですが、大和物語を原典ととれば、九州地方ではなく関西のお話とするべきかも。鹿児島の昔話のほうをまだ調べていないので確認します。
絵描きになりたい  投稿日時 2012/9/2 11:33
まんが日本むかし話にはめずらしいほど(と、当時の私は思った)濃い、というか重いというか、一言では言い表せない一編でした。
胸の熱でお湯を沸かした妻の胸のうちも想ったし、独りぼっちだった狐の哀しさも。あの狐はただ寂しかったんだ、と思った。

それにしても藍色の夜景を背にした狐の画があまりにもさびしくも美しくて、脳裏に焼きついています。そして自分もこんな美しくて泣きたくなるような絵が描きたいと思った。

・・・未だに描いてません(爆)
araya  投稿日時 2011/11/5 15:13
妻の唱えていた呪文のようなもの…。

七里松山 五里坂どころ
  うわの空では 通われぬ

 わしが胸の内は 焦がれて燃える
      煙を出さねば 人は知らぬ

とのことで、七七七五、九七八六。二句目は変調してるけど、これはやはり都都逸なのかなぁ(^_^)。

「可愛ゆけりゃこそ 七里もかよへ 憎くて七里が 通わりょか」

ってのもあるけど『山家鳥虫歌』(1772年刊)にある

「恋に焦がれて 鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が 身を焦がす」

ってのにも何かしら似通うところがあって面白い。
みけねけ  投稿日時 2011/10/31 22:59 | 最終変更
半数が離婚する今の世相、深い絆のこのお話は印象に残りますね。
araya  投稿日時 2011/10/31 10:41
五里ヶ迫の位置が分かりましたので、その集落の座標を記しておきます。立地的には川に挟まれた坂之上地区と呼ばれる丘陵で、松山町に続く街道への抜け道もありますが、少しいくと人里離れた印象です。

31.502147,131.12379

鹿児島の民話でありながら、あまり知られていない話のようで、機会があれば、原典を確認したいところです。
みけねけ  投稿日時 2011/10/31 0:29 | 最終変更
横から失礼します。
コメントツリーに志布志の名前が出てきてびっくりしました。子供の頃大隅半島は大崎町というところに住んだことがあり、「街に出る」「普段しないお買い物」のときは鹿屋市か志布志市に出掛けるという感覚だったのを覚えています。
見知った地名が出てくるのは一段と物語の世界を近くに感じる気がします。


監修者の川内さんは昔話の制作をライフワークにしていたそうで、心温まる日本の昔話が埋もれてしまうことに懸念を抱いていたとか。どのようにして昔話を発掘していたのか、その作業はどのようなものだったのかちょっと興味がわきました。学問的なことでこうした作業が行われることがあるのは聞いたことがあるのですけど、まんがの形で親しみやすく広めたということはまた価値があることだなぁと思ったりします。(私が思ったところでどうということはないわけですが(笑))。
beniko  投稿日時 2011/10/30 19:27 | 最終変更
早速マッピングしました、また地域も「鹿児島」に変更しました。はっきり違うよ!という情報が出るまではこのままにしておきます。
※地図情報のお知らせはグーグルマップで指定した座標でもOKですよ。(例:31.484619,131.106783)

志布志といえば、あの美しい千亀女の町ですね。この狩人も「どげんして」と言っているから、九州地区に間違いないと思いますが。
araya  投稿日時 2011/10/30 18:17 | 最終変更
これに出てくる呪文みたいなのが聞き取れないけど、

七里まつ山 五里坂の…

って何かの雑徭だろうか。全文が分からないから、検索してもこれといったものがヒットしない。原作をあたった方がいいかな(^_^;。

しかし、下野敏見さんの本で未来社というと、屋久島か種子島など鹿児島の民話収録しかない。話中の「七里先の松山まで足を伸ばそうと思う」の松山が鹿児島だとすると、鹿児島県志布志市松山町のことになる。ここは江戸期から松山村だったから町役場が中心地なら、そこから七里(半径28km)のあたりが狩人の住まいで、その範囲内に五里坂もありそうだから、距離的に見るなら志布志市志布志町帖ある五里ヶ迫って小字がそれっぽい。迫は山がせまった沢や谷のことで坂道になるから、ここが狐との逢瀬の現場かも…。

ひとまず、鹿児島県志布志市志布志町帖字五里ヶ迫が舞台としても、小字名がヒットしませんので、五里ヶ迫の場所が分かるまで、帖から松山への街道の入り口を仮ポイントとして記しておきます。

http://goo.gl/maps/AP4yL

余談ですが、帖のすぐ隣の「鹿児島県志布志市志布志町志布志 2-1-1 志布志市役所志布志支所」はクドイ住所として有名なんだそうです( ̄∀ ̄)。
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