昔々、山城の国の梅津(うめづ)にたいそう貧乏な夫婦がいた。この夫婦、働いても働いても貧乏で、食べる物と言えば、野山で採れる木の実やイモばかり。それでも2人は正直者で、人には大変親切だった。
そんなある日、亭主は、せりを摘みに行く途中1人の尼さんが道に迷っているのに出くわした。この亭主、京都に行く道順を教えているうちにややこしくなってしまい、とうとう京の都が見える所まで尼さんをおぶって行ってしまった。尼さんは、親切にしてもらったお礼に1文銭を渡した。めったにお金を手にしたことのない亭主は、喜んで家に帰ると、もらった1文銭でもちを買ってくるよう女房に言う。
もう何年も、もちなど口にしていない女房も大喜びで、急いでもち屋へと走り、もらった1文銭でおもちを2つ買った。ところが、女房は家に帰る途中、乞食のような汚い身なりをしたお爺さんに呼び止められた。このお爺さん、もう5日も何も食べていないと言って、おもちを1つ恵んでくれるよう頼んだ。そこで女房は、自分が貧乏なのも忘れて、このお爺さんにおもちを1つ分けてあげた。
結局、1つのおもちを2人で半分に分けて食べることになった夫婦だったが、別におもちをあげてしまったことを悔やむわけでもなく、久しぶりのおもちを2人でおいしく食べ、その日はいい気分で床についた。するとその晩、2人の夢の中に恵比寿様が現れたのだ。
恵比寿様が言うには、今日女房が道で出会った汚い爺さまは、実は夫婦の家に住む貧乏神で、貧乏神は夫婦のやさしさに心を打たれ、今日限りで家を福の神に明け渡すのだそうだ。そして恵比寿様は、これから夫婦の家を我々が守ると言い、他の七福神の神様を呼び集めた。こうして、夫婦を囲んで神様たちの賑やかな宴会が始まった。
そして、宴もたけなわとなった所で、恵比寿様と大黒様が相撲を取ることになった。恵比寿様も大黒様もお互い譲らず、なかなか勝負はつかない。2人の神様は土俵際でせめぎ合い、とうとう2人そろって夫婦の方に倒れこんできた。ここで夫婦は、びっくりして夢から覚めた。
何だ、夢だったのか?と夫婦は思ったが、どうやらこの夢が正夢だったようで、それから2人は何をやってもうまくいき、梅津の長者と呼ばれるまでになった。ところでこの夫婦、お金持ちになってからも昔と変わらず、人にはとても親切だったので、多くの人から慕われたそうだ。
(投稿者: やっさん 投稿日時: 2012-1-1 8:38)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 二反長半(未来社刊)より |
出典詳細 | 京都の民話(日本の民話41),二反長半,未来社,1965年10月10日,原題「梅津の長者」,原話「松下葉津子」 |
場所について | 京都府右京区梅津(地図は適当) |
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