雪姫・紅葉姫

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むかし、下野の国(しもつけのくに)に源じいという百姓がおりました。百姓といっても源じいは三度の飯より網打ちが好きで、よく川に行っては一日中網打ちをしておりました。 あ...…全文を見る

雪姫・紅葉姫

投稿者:マルコ 投稿日時 2013/9/2 7:39
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ある夏の夕暮れのこと。源じいはいつものように網打ちに出かけましたが、この日に限ってどれだけ網を打っても一匹の魚も捕れないでいました。

「何十年も網打ちをしてきて、今まで魚が捕れなかったことはなかった」と源じいも意地になって網打ちを続け鬼怒川を下流へと下るうちに、釜ヶ淵(かまがふち)と呼ばれる、切り立った崖に囲まれた深い淵にたどり着きました。

この淵の上には、その昔勝山の城がありました。お城には美しく仲の良い姉妹姫が居て、姉が紅葉姫、妹が雪姫と言いました。この二人の姫は、武芸も達者で、父親にそれは可愛がられて育ちました。しかし、紅葉姫が19歳、雪姫が18歳の時のこと。城に敵が攻めてきたのです。姉妹は自ら薙刀を取って戦いましたが、多勢に無勢。どんどん味方はおされていきました。そしてとうとう両親も殺されて、崖に追い詰められた姉妹は、手を固く握り合って淵に身を投げてしまったという言い伝えがありました。

こういう話があるものですから地元の者も決して近寄ろうとはしない場所でした。
源じいは、少し薄気味悪くなりながらも「なんの古い昔の話じゃ」と網打ちを続行しました。
しかし、やっぱり魚は捕れません。やがて、源じいも諦めて帰ろうとした時、船の周りに美しく鮮やかな緋鯉と雪のように真っ白な鯉が現れました。「しめた!」やっと現れた大物を逃すまいと源じいは網を投げました。

投げた網に手応えを感じた途端、水面がざわめき淵の底に引きずり込むようなすごい勢いで網が引っ張られました。「なんの、かかった獲物は逃したことはない」と源じいは必死になって網を引き、日が完全に暮れかかった頃になってようやく真っ白な鯉を船に引き上げることができました。

源じいはへとへとでしたが、立派な鯉に大満足して家路につこうと船を漕ぎ始めました。
すると、どこからともなく「雪姫、雪姫」と呼ぶ若い女の声が聞こえ、美しい緋鯉が水面に跳ね上がりました。それに呼応するかのようにぐったりしていた白い鯉が船の上で飛び跳ね始めたのです。

大きな鯉が飛び跳ねるものですから、船はたちまち安定感を失いはじめました。源じいは慌てて船の上の白い鯉を押さえつけようとしましたが、どうしたことか身体が硬直したかのように動きません。その間も「雪姫、雪姫」と淵全体に響く若い女の声に、水面を飛び跳ねる緋鯉。源じいは、船のヘリに捕まりながら、もしやこの鯉はあの伝説の姫の生まれ変わりなのかとぞっとしました。

大きな2匹の鯉が飛び跳ね続けた結果、源じいの船はとうとう転覆してしまい、源じいも投げ出されてしまいました。そして船から逃げ出した真っ白な鯉は、美しい緋鯉に寄り添うと淵の奥へと姿を消して行きました。

翌朝、源じいが気が付くと淵よりずっと下流の岸辺に投げ出されていました。源じいは夢でも見たのだろうと思いましたが、それっきり大好きだった網打ちを一切やめてしまいました。

今でも、釜ヶ淵では美しく鮮やかな緋鯉と雪のように真っ白な鯉が、淵の深くに潜んでいて、時々寄り添って水面まで上がってきては仲良く泳ぐのだそうです。
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