昔々、ある所にとても貧乏なお爺さんとお婆さんが住んでおりました。明日はお正月だというのに、2人の家には1粒のお米もなく、お餅をつくことも出来ません。何か売れるものは家の中に無いものかと2人は探しますが、金目のものは何もありません。
2人は、ようやく納屋(なや)でお婆さんがお嫁に来た時に被っていた綿帽子を見つけます。お爺さんは、お婆さんの思い出の品を売るのは忍びなかったのですが、売れるものはこれしか無く、背に腹は変えられません。お婆さんの綿帽子を街に売りに出かけます。
お爺さんが街に向けて歩いていると、いつしか雪が降り始めました。お爺さんがしばらく道を歩いていると、1体のお地蔵さまが道端にありました。お地蔵さまは、降り積もった雪の中に寒そうに1人ポツンと立っていました。お爺さんは、お地蔵さまの頭に自分の被っていた破れ笠を被せますが、それでは何ともみすぼらしいので、代わりにお婆さんの綿帽子を被せて家に帰りました。
こうした訳で、結局お米は買えませんでしたが、これを聞いたお婆さんは怒るふうでもなく、「お爺さんは、いい事をしなさった。」と言います。お餅がなければ、お正月が来ない訳でもなく、今日は暖まって寝ようと言うことで、その夜2人は囲炉裏に薪を多めにくべて床につきました。
ところが夜も更けた頃、なにやら縁側で音がします。お爺さんが見ていると、何とそこには、昼間のお地蔵さまが綿帽子をかぶって立っていました。2人はびっくりしましたが、お地蔵さまも寒かったので、家にいらしたのだろうと、お地蔵さまを囲炉裏のそばに置いて床につきます。
すると今度は、なにやら「ポツリ、ポツリ」と音がします。2人が見ると、何とお地蔵さまの鼻の穴から米粒が落ちてくるのでした。慌てて敷物を敷くと、お米はお地蔵さまの鼻の穴からシャーシャーと流れ出し、家の中はお米でいっぱいになりました。
こうしてお爺さんとお婆さんは、正月のお餅をつくことが出来、本当にめでたいお正月を迎えたそうです。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2011-12-10 11:18)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 稲田浩二(未来社刊)より |
出典詳細 | 岡山の民話(日本の民話36),稲田浩二,未来社,1964年03月15日,原題「綿帽子をかぶったお地蔵さんの話」,採録地「真庭郡美甘村」,話者「河井繁太郎」 |
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