昔、安芸の宮島の厳島神社(いつくしまじんじゃ)へ続く街道筋に、とても欲深い夫婦が一軒の宿屋を営んでいた。強欲ぶりが旅人にもわかるのか、客はめったに来なかった。
その宿に、久しぶりに景気の良さそうなお客がやってきた。強欲な夫婦は、茗荷(ミョウガ)を食べると物忘れする、という話を思い出し、この客にたくさん茗荷を食べさせて大金の入った財布を忘れていかせようと計画した。
強欲亭主が、暑気払いに効果があるからと「茗荷の重ね食い」と名づけたその献立は、茗荷の串焼き、茗荷の浅漬け、茗荷の三杯酢、茗荷の煮つけ、茗荷のお汁、茗荷飯、にお酒。ミョウガのフルコースだったが、どれも美味しかったため客は大喜びだった。
翌朝、客は朝食にも茗荷づくしの料理を食べさせられて、なにやらフワフワとした気持ちで厳島神社へ出発した。さっそく亭主は客室をくまなく探したが、何も忘れているものは無かった。がっかりした夫婦だったが、財布に気を取られて宿賃をもらい忘れていた事に気が付いた。
がっくりと気落ちした夫婦だったが、あの客が茗荷料理のうまさをあちこちで吹聴してくれたので、それからその宿は「茗荷の宿」と呼ばれ、たいそう繁盛したそうです。
(紅子 2011-9-26 1:49)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 松岡利夫(未来社刊)より |
出典詳細 | 周防・長門の民話 第二集(日本の民話46),松岡利夫,未来社,1969年10月20日,原題「茗荷の宿」,採録地「吉敷郡」,話者「平田クマ、富永亀太郎」 |
場所について | 吉敷郡の嘉川という宿場町(地図は適当) |
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