杉と松の伝説「お杉とお松の伊勢参り」
昔、越後国蒲原郡石瀬村のお杉、お松姉妹という二人の美しい娘が伊勢参りに出かけ、宇治の門前宿に泊まりました。出立の朝、姉妹は顔を赤くして恥じらいながら、宿の主人にこう願いました。 「まことにすみませんが、実はお金が足りません。いつかご主人様が所用で越後へみえた時、きっとお返しいたしますので、どうか宿料を待っていただけますか。」 主人は姉妹がいじらしかったので、快くこの申し出に応じました。
その翌年、主人に思いがけず越後への用ができ、偶然石瀬村を通りかかりました。そこでふと、伊勢参りにきた姉妹を思い出して懐かしくなり、訪ねてみたくな りました。ところが、村人に尋ねてみても、誰も姉妹に心あたりがありません。主人はやむなく村を通り過ぎ、村はずれの老松の根元に腰を下ろし休みをとりま した。そして、ふと目を上げた時です。松の枝に緡(昔の貨幣の穴に通して貨幣をつないだ細い縄)にさした二百文がぶらさがっているではありませんか。不思 議に思って辺りを見回すと、山手の方には一本の老杉が立っています。主人は、姉妹が語っていた『田中屋のお婆さんが作るおいしいだんご』の話を思い出し、 茶屋を訪れました。そこで今までの不思議な出来事を話すと、お婆さんは大層驚いてこう言いました。
「その姉妹は、きっと老杉と老松の樹の精に違いない。木から抜け出して、伊勢参りに行ったのではないかね。」 樹の精の姉妹の信仰心に感激した主人は、帰り道、老杉と老松を振り返り振り返りしながら、石瀬村を後にしたということです。
http://www.iwamurokankou.com/info/tradition.php