Re: 辰子姫物語

辰子姫物語 についてのコメント&レビュー投稿
昔、院内(いんない)の里に辰子という一人の娘がいた。辰子は野山を駆け巡り、自然にはぐくまれて育ち、やがて美しい娘になった。しかしそんな辰子は、まだ自分の美しさに気づいて...…全文を見る

Re: 辰子姫物語

投稿者:ゲスト 投稿日時 2013/3/3 1:17
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辰子の母と村人達は思わず息をのんだ。
黒雲の走る空からかすかに漏れる半月のうす明かりに、鉛色にぶく輝く、広い湖が満々と水をたたえているではないか!今までに誰も見たこともない大きな湖が!
「辰子よ!辰子よー!」辰子の母は湖に向かって気も狂わんばかりに叫び続けた。
水の面はしーんと静まりかえり、小波がさらさらと鋭く光るばかりであった。それでも辰子の母はひるまなかった「辰子よ!辰子よー!」そのとき、湖の中にぼうっと淡い明かりが差したかと見る間に、ざばざばと水しぶきを上げ、銀色の鱗をひらめかした龍が湖水の中から浮かび上がった。
母の声に応じて現れた辰子の姿だったのだ。

辰子の母は、それを見ると、狂わんばかりにもだえ、身をよじり、「辰子よ、私の娘はそんな恐ろしい龍ではない。私の娘よ!美しい辰子よ!かわいい辰子よ!」とさらに叫び続け、「おまえのような龍など私の娘ではない!」と、あまりの腹だだしさに持っていたたいまつを龍に向かって投げつけると、不思議にもそのたいまつが湖面に落ちると、美しい魚となって泳いでいった。
母の声が聞こえたものとみえ、龍は静かに波間に姿を消したが、ふと気がつくと、母のたっている波間近く、いつに変わらぬ輝くばかりに美しい辰子が現れた。

はっと驚いた母は、息をのんで見つめていたが、我に返ると、「辰子、早く家に帰ろう」と、いうと、辰子は静かに首を振った。そして、「お母さん、お許し下さい。私はもう人間ではありません。先ほどの龍こそ私の今の姿なのです。今までお話をしませんでしたが、私は永遠に美しさが変わらぬように観音様へ百日の願をかけたのです。その願いが叶って龍となり、この湖の主となって住むことになったのです。」そのことを聞くと辰子の母は声を上げて泣き崩れた。そして「辰子よ、そのままでみんなと一緒に村へ帰ろう。母さんは、おまえが神龍だの、湖の主だのになるのは少しも嬉しくない、そのままの辰子でいて欲しいのだよ」辰子は悲しそうに母の言葉を聞いていたが、「お母さん、もう嘆くのはやめて下さい。
私までが悲しくなりますもの・・・・・・私が先ほど見せたような姿になったので、さぞや悲しいことでしょうが、これは逃れられない宿命なのです。これまでかわいがってもらって何一つ孝行のできなかったことをどうぞお許し下さい。」
「辰子よ、そんなことを言わずに村の人たちと一緒にどうか家に帰って私のそばにいてくれ」「お母さん、その言葉は辰子とても嬉しいのです。しかし、もうだめなのです。辰子はもう二度とお目にかかることはできません。
なにとぞお許し下さい。でも、せめて私の形見として、お母さんの大好きな生魚を四六時中絶やさぬように水屋に送ります。どうかその魚をみるたびに、辰子は湖の中で若く、美しく、幸せに暮らしていると思って下さい」と、言い終わると、美しい辰子の姿はみるみる龍体と化して湖の底に消えていった。
「辰子よー!辰子よ!待ってくれ!辰子よ!!」声を限りに母は悲痛な叫び声を上げて呼んだ・・・・・・。しかし、あたりはひたひたという小波の音しか聞こえなかった。
辰子の母も、村人達も、ただうなだれるばかりであった・・・・・・。

辰子の母はじっとしてしばらく湖面から目を離さずにいたが、無性に腹立たしくなり、手にしていた燃え残りの木の尻を湖面に向かって投げつけたのであった。
すると、どうしたことであろう、不思議なことに、その木の尻はみるみる魚となり、尾を振りながら泳ぎ去っていった・・・。
泣き疲れた辰子の母は、村人達に抱えられ、ようよう家にたどり着いたが、その後辰子の言ったとおり、さんの城の家の流しの水槽には一年中を通して魚の絶えることがなかった。

かくして辰子を主としたこの湖は、美しかった辰子を想わせるように水は清らかに青く澄み、また湖畔には辰子の好きだった白百合の花が一面に咲くようになった。辰子の友達は毎年のごとく春ともなれば湖畔を訪れて、咲きにおう白百合の花をみては在りし日の辰子の姿を思い浮かべるのだった。
永劫の美しさを求めて発願し、大蔵観音によってその願いが叶えられ、神龍と化して湖の主となった辰子の物語は、この湖の続く限り、湖の美しさと共に世の人の心に残り、語り伝えられることでしょう。後の世までも・・・・・・。
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