Re: 辰子姫物語
投稿者:ゲスト 投稿日時 2013/3/3 1:17
三人の娘たちがふと、目を覚ましてみると、辰子が見えないのに気がついた。
初めはその辺でわらびでも採っているのかと思っていたが、いくら呼んでも返事がないので、次第に不安になり、ついには小走りになり、声をからして辰子を呼びながら森の奥へ、奥へとたどっていった。すると森の奥の方から、かすかに辰子の返事が聞こえてきた。
「あ!この森の奥だ!」娘たちは、ホッと胸をなで下ろしながら森の奥へやっていくと、そこには見たこともない大きな湖が紺碧の水を満々とたたえていた。そして湖のほとりこけ岩の上に、恐ろしい龍の姿を見つけた。そして、かすかに返事をしているのは、恐ろしいその龍であった。
娘たちは気を失わんばかりに驚いて、後ろをみずに森をあとにして逃げ出した。
三人の娘は夢中だった。すべってはころび、転んでは飛び起きて、転げるようにして山を下り、大声で叫びながら辰子の家にこのことを知らせた。
「なに?辰子が龍になっただと?そんなバカなことがあるものか・・・・・・おまえ達気でも狂ったのではないか?」娘達の叫び声に集まった人々も、あきれて顔を見合わすばかりであった。
しかし、三人の娘達の真っ青な恐怖におののく顔や、不気味な山鳴りを聞くと、ただごとではないと思うようになった。
あまりの驚きに炉端に座ったまま身動きもせずに娘達の話を聞いていた辰子の母は、いきなり立ち上がった。そして、いろりに燃えさかる槇を手にして半狂乱のようになって、「辰子、辰子」と、娘の名を呼びながら、夕闇の中を院内嶽目指して走り出した!
村の人たちも顔色を変えて後を追い、辰子の母を助けながら院内嶽に向かうのであった。
ようやく院内嶽を越えたか・・・・・・見慣れた山の姿も、丘や林は跡形もなく、雷に打たれ崖は崩れ、ものすごさに不安が募ると共に、ただ胸を突かれるばかりだった・・・。
驚きと恐れにおののきながら、かくがくする足を踏みしめ、さらに木立の中に分け入った