昔、和歌山の加太という海辺の村に、年老いた漁師の夫婦が住んでいた。二人の船はとても古く、乗っている間に少しずつ水が漏ってくるので、手桶でかき出さないといけなかった。
今日も魚を捕りに沖へ漕ぎ出だしていると、沖でおぼれているタヌキを見つけた。このタヌキは淡路島の柴右衛門狸で、酔っぱらってうっかり海に落ち、ここまで流されてきたという事だった。柴右衛門はすっかり元気を取り戻し、翌朝、老夫婦が目を覚ます前に姿を消した。
やがて北風が吹く頃になると、お爺さんは山に薪(まき)を切り出しに行った。この年はあまり薪になる木がなく、売りに行くほどの量は取れなかった。困っていた老夫婦の所に、夜になると沢山の薪が届くようになった。お爺さんがこの薪を町で売ると、火付きが良いという事で飛ぶように売れた。それからも毎晩毎晩、薪が届けられ、それが冬の間ずっと続いた。
やがて春になり「薪の送り主がいったい誰なのか」と老夫婦が見張っていると、あの柴右衛門がやって来た。柴右衛門は「もう春になったから淡路に帰ります、今日で薪は最後です」と言って去って行った。さらに、柴右衛門は新しい船もプレゼントしてくれたので、この老夫婦は魚も沢山捕れるようになった。
(紅子 2011-12-14 18:44)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 和歌山県 |
場所について | 和歌山の加太(地図は適当) |
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