昔、兵六(ひょうろく)というお人好しの男に美しい気立てのいい妻がいて、二人は仲良く幸せに暮らしておりました。
兵六は妻があまりにも美しいので、その顔にずっと見とれてばかり。結婚してからというもの畑仕事もまともにできないありさまでした。それに困った妻は、自分の絵を兵六にもたせて仕事に行かせることにしました。妻の絵姿をもらった兵六は、それを板に貼り付けて絵を見ながらようやく畑仕事をしっかりすることができるようになりました。
ところがある時、その大事な絵姿が風に煽られて飛んでいってしまったのです。兵六は追いかけましたが、取り返すことはできませんでした。その絵は、城に飛ばされていました。絵姿を見た殿様はひと目で彼女を気に入り、家来にこの女性を探して連れてくるように言いつけました。自分の妻にするためです。
そうして見つかった兵六のお嫁さんは、家来に連れて行かれることになってしまいました。お嫁さんは「桃の種」を兵六に渡して、「三年経ったら実がなります。必ずお城に売りに来てください」と泣きながら言い残して連れて行かれました。兵六はしょんぼりとしていましたが、妻の言い残したとおり桃の種を植えて三年間育て上げ、桃をお城に売りに行くことにしました。
一方その頃、お城では無理やり結婚したはいいが、妻がこの三年間全く笑わないので殿様は困っていました。そこへ聞こえてきた兵六の桃売りの声。兵六の声を聞いた妻は嬉しそうに笑い出しました。それを見た殿様は嬉しくなって兵六を城にあげ、「もう一度桃を売ってみせよ」と所望しました。妻は兵六の姿を見てまた嬉しそうに笑い、殿様はもう嬉しくて嬉しくて今度は自分が妻を笑わそうと、兵六と着物を交換しようと言い出しました。
桃売りの姿になった殿様は、妻が笑ってくれるのを見ながらはしゃぐうちに、そのままの格好で城の外まで出てしまいました。そうとは知らない門番は、桃売りが帰ったのだと思って門を閉めてしまい、再び中に入ろうとする殿様を「怪しい桃売りめが」と外に追い出してしまいました。こうして、兵六は美しい妻とともに殿様として、幸せに暮らしたということです。
(投稿者: もみじ 投稿日時 2012-6-16 14:45 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | (表記なし) |
DVD情報 | DVD-BOX第1集(DVD第3巻) |
VHS情報 | VHS-BOX第1集(VHS第5巻) |
本の情報 | サラ文庫まんが日本昔ばなし第12巻-第058話(発刊日:1977年2月15日)/童音社BOX絵本_第09巻(発刊日不明:1970~1980年頃)/国際情報社BOX絵本パート1-第011巻(発刊日:1980年かも)/講談社デラックス版まんが日本昔ばなし第05巻(絵本発刊日:1984年10月15日)/講談社テレビ名作えほん第014巻(発刊日:1977年11月) |
サラ文庫の絵本より | 絵本巻頭の解説には地名の明記はない |
童音社の絵本より | 絵本巻頭の解説(民話研究家 萩坂昇)によると「鳥取県の昔ばなし」 |
国際情報社の絵本より | 心は底ぬけに良いのだが、頭が少し足りない男が、美しい女を嫁にするという、類型的な昔話の一つで、幸せな結末も用意されています。絵姿を持たせてやる話、お城の殿様が人の女房を手に入れるため、無理難題を出す話、笑わない女が何かのきっかけで笑い出す話など、この物語の中には、いくつもの昔話の要素が入っています。福岡県では、長者の娘が貧しい男のところへ嫁に行き、モモ売りの部分はショウブ売りになっていますが、小道具が、それぞれの地域色を出すところが、民話の面白い点です。でも、これがカキだったら、”桃栗三年、柿八年”で、随分長く待たされてしまいますね。モモでよかった……。(地名の明記なし) |
講談社のデラックス版絵本より | お人よしの男と美しい女房という組み合わせは昔ばなしによくみられるパターンです。兵六は女房の美しさにほれぼれと見とれ、仕事にもいきません。そこで女房は考えて絵姿を持たせるわけですが、これによって殿様にむりやり城に連れて行かれてしまいます。でも、ここでも女房は夫に桃の種を渡し、実がなったら城に売りに来るようにと、いいます。なんと知恵の働く女房でしょう。夫が桃売りに来た日、女房ははじめて笑いました。財産や地位にものをいわせて連れ去ることはできても、その心まで自分のものにすることはできないというわけです。(鳥取地方のお話) |
講談社の300より | 書籍には地名の明記はない |
レコードの解説より | LPレコードの解説には地名の明記はない |
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