昔、九州の山国での話。
ある村に長者がおり、この長者には美しい一人娘がいた。娘の美しさは村の評判となり、娘を一目見たさに大勢の男が毎日長者の家の門に押しかけた。
ところが、ある時から娘は姿を見せなくなった。娘が姿を現さなくなったため、次第に人々の足も長者の家から遠のいていった。しかし、ここに平作(へいさく)という若者がおり、娘を見ることが出来なくても、毎日長者屋敷に足繁く通っていた。ある日、平作は屋敷に出入りする医者から娘が重い病を患っていると知る。
それからまもなくして、村は大雨に見舞われ、平作は増水した川に流されてしまう。平作が滝から落ちかけたところ、不思議な光を放つ大鹿が現れ、平作の命を救った。平作は大鹿に感謝し、お礼になんでも言うことを聞くと言った。大鹿は言う。「礼などいらぬが、自分のことを決して村の者に話さないでほしい。」平作は、このことは決して誰にも漏らさぬと大鹿に約束する。
平作が村に帰ってみると、なにやら長者の家の前に立て札が立っている。それは、「奇しき色の大鹿の居場所を教えたものには、望みの褒美を与える。」というものだった。奇しき色の大鹿の生き血を飲ませれば、娘の病が治ると長者に言った者がいたのだ。
これを知った平吉は、家に篭って一人悶々と悩んだ。娘の病気は治したいが、大鹿との約束も破れないからだ。しかし、平吉はとうとう大鹿の居場所を長者に知らせてしまう。これを聞いた長者は、早速大鹿を撃ちに出かける。
長者の一行は、平作の落ちかけた滝で大鹿を見つけた。すると長者を目にした大鹿は言う。「私は命は惜しくないが、この場所を言った者を教えてほしい。」平作は耐え切れず、自分が知らせたと白状し、事の一部始終を話した。大鹿が平作の命の恩人と知った長者は、大鹿を撃たずに引き返した。
その後、長者の娘の病はすっかり良くなったが、平作は命の恩人を裏切った己を恥じたのか、姿を消してしまった。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2011-9-10 9:09 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 比江島重孝(未来社刊)より |
出典詳細 | 日向の民話 第二集(日本の民話43),比江島重孝,未来社,1967年12月20日,原題「奇しき色の大鹿」,採録地「西都市妻町酒元」,話者「松下ハツ」 |
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