むかしむかし、遠い南の海にぽっかり浮かんだ鬼ヶ島があって、たくさんの鬼達がのんびり暮らしておった。鬼ヶ島から海を隔てたずうっと向こうには、土佐の国、久礼浦という漁師の村があって、近頃、その村から悲しい女の泣き声が鬼ヶ島まで聞こえてくるのじゃった。
不思議に思った鬼達は岩鏡に久礼浦で起こった出来事を映してみた。すると久礼浦では近頃海が荒れ、漁に出た亭主と子供を亡くした女が泣いておるのじゃった。鬼たちは貰い泣きし、久礼浦の港に岩を運んで波を防いでやろうと考えた。
「ようし、儂がやっちゃる。たとえ人間でも子を思う気持ちは鬼と同じじゃ。」と、大きな黒鬼が名乗り出た。黒鬼は大きな岩を二つ、鉄棒の両端に串刺しにして、肩に担いだ。黒鬼の小さな小鬼もその岩の上に乗ってついて来たそうな。
黒鬼が大岩を担ぎ、何人かの鬼がそれを支えながら、鬼達は久礼浦を目指して出発した。じゃが、久礼浦は遠く、風も出てきたため、鬼達は一人また一人と運ぶの を止めて鬼ヶ島に帰って行った。黒鬼は小鬼も連れて帰ってもらおうとしたが、小鬼は「おっとうと一緒に行く。」と言って聞かんかった。
こうして、日が暮れる頃には黒鬼と小鬼だけになってしもうた。やがて夜は更け、海はさらに荒れた。一人で運べると強がりを言った黒鬼じゃったが、鉄棒は重く 肩に食い込み、もう目も見えんようになっておった。黒鬼は最後の力を振り絞って、必死に久礼浦に向かって大岩を運んだ。
そうして、とうとう久礼浦の入口まで大岩を運んだ黒鬼は、そのまま海の中に沈んでしもうて、それっきり二度と姿を現すことはなかった。
「おっとう!おっとう!」小鬼は黒鬼を呼んで泣き続け、そのまま烏帽子岩という小さな岩になってしもうたそうな。
黒鬼が持ってきた二つの大岩は双名島と呼ばれ、鉄棒を突き刺した穴も残っているという。そうして今でも久礼の港を大波から守りながら、美しい姿を見せているということじゃ。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2013-4-5 22:40)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 市原麟一郎(未来社刊)より |
出典詳細 | 土佐の民話 第二集(日本の民話54),市原麟一郎,未来社,1974年08月30日,原題「双名島物語」,採録地「高岡郡」,話者「山野上順馬」 |
場所について | 高知県の久礼湾の双名島 |
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