昔、出雲の国のある村に、お爺さんに先立たれ一人暮らしをするお婆さんが住んでおりました。お婆さんは、足や腰を悪くしてからというもの、田んぼ仕事も出来なくなり、日々の食べるものにも困るほど貧乏になっていました。
そんな11月も末にせまったある日のこと。一人のみすぼらしい格好の旅の坊さんがお婆さんの家にやってきて一夜の宿を頼みました。「食べ物はないけれど、せめて火にあたって体を温めてください」とお婆さんは快く家にいれてあげました。
囲炉裏の傍に座ったお坊さんを見てるうちに、お婆さんはふと、亡くなったお爺さんのことを思い出しました。「寒い日には団子汁だなぁ」と言ったお爺さんの事を思い出したお婆さんは、悪い足を引きずりながら隣の田んぼに入っていきました。そして、干してあった稲わらを一束抜き取って家に帰ってきました。
隣の家の田んぼには、くっきりとお婆さんの引きずった足跡が残っていました。お婆さんは、盗んだ少ない米でたった一つの団子を作り、なけなしの菜っ葉や味噌を使ってお坊さんに団子の味噌汁をふるまいました。その夜、お婆さんは田んぼに残った足跡の事が不安で、寝付くことができませんでした。
翌朝、お婆さんが戸を開けると、あたりは一面の銀世界で、田んぼの足跡も雪で見えなくなっていました。お坊さんは、「悪い足を手でさすって南無阿弥陀仏と唱えなさい。きっと良くなるから」と言って、また旅立っていきました。
そうして、お坊さんのおかげでお婆さんは足も腰もすっかり良くなり、日々の暮らしも良くなりました。この話を聞いた村人達は、きっとそのお坊様はお大師様に違いないと言い合いました。
そして、お坊さんが来た11月24日に団子汁を作り、お大師様を偲ぶようになりました。この団子汁のことを「たいしこ団子」と呼び、毎年この日には必ず雪が降るようになったということです。
(投稿者: もみじ 投稿日時 2012-8-28 2:04 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 岡義重(未来社刊)より |
出典詳細 | 出雲の民話(日本の民話12),石塚尊俊、岡義重、小汀松之進,未来社,1958年09月15日,原題「たいしこ団子」,原話「福代雪子」 |
場所について | 出雲 |
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