明神様の化物
上永井のはずれ、高戸部落に、
杉の木立に囲まれた小さな明神さまの社があります。
今でこそ県道が、その近くを通るようになりましたので、
高台とは云えなくなりましたが、
昔は道が川にそってついていましたので、
このあたりはこんもりと繁った丘になっていました。
高戸部落の人々は明神様を中心に仲よく暮していました。
人々はそりゃ信心深くて、
月の十五日には、どんなに忙しい時期でも仕事を休んでおまいりし、
又、「初物」といって、その年初めてとれた作物や、
めずらしい物などは、明神様に供えてからでなければ
決して食べませんでした。
そんな風でしたから、「明神様の道」とよばれる細い道は
部落内の近道で何かと便利な道でしたが、
不幸のあった時や、葬式の出入りや、赤ん坊が生れて七日の間は、
そこは通れないことになっていました。
ところが、となり村から引っこして来た大工の家のバアさまは
そんなことはとんとおかまいなしで、
部落の人が供えた物はとって食べてしまうし、
十五日には、皆でなんぼすすめても、お参りもしませんでした。
さて、ある夏の夕暮れのことでした。
部落の年寄りが死んで、とむらいの手伝いに行くことになりました。
皆は明神様の道は通らないのに、大工の家のバアさまは、
「バカバカしい」
と一人でそこを通って行きました。
すると、今までサヤサヤとやさしい音をさせていたしめ杉が、
ピターとなりをしずめたかと思うと、
モウソウ竹が、一せいに生物のようにざわめき出しました。
気の強いバアさまも、背すじが、ザワーッと冷水をかけられたようになって、
一歩も動けなくなってしまいました。
次のしゅんかん、しめ杉の上から身の丈が、
並の男のニ増倍もある太夫さまが下りて来て、
大手を広げてバアさまの前に立ちふさがりました。
さすがのバアさまも、目ん玉ひんむいて、ひっくり返ってしまい
心配してもどって来た人達に助けられたときには、
腰がぬけていざっていたそうです。
それからは、バアさまも皆と同じように、
明神様を拝むようになりました。
明神様の化物 『永井の昔ばなし』から 2012年02月02日 いわき民話さんぽ
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