石川県の額見と言うところに、六兵衛と言うおじいさんが住んでいた。昔は腕の良い樵として方々に知れていた剛の者だったが、今は御宮の草刈りを仕事にして暮らしていた。
その頃、御宮の裏にある大池の主のカメが、近付く者を沼に引きずり込むと言うので、村人に恐れられていた。
ある日の事。六兵衛がいつものように草刈りをしていると、見慣れない子供が一人ひょっこりと姿を現わし、六兵衛に「俺の背中に乗れ。沼に行って遊ぼう」としきりに誘うのだった。六兵衛はその子供の様子があまりにも怪しいので「きっとこ奴は沼の大ガメが化けているのだろう」と思い、騙された振りをして子供の背に飛び乗った。
すると子供はその小さな体に似合わぬ怪力で六兵衛を担ぎあげ、物凄い早さで沼に潜り込もうとした。六兵衛は必死に子供を押さえつけ、子供は必死に六兵衛を沼に引き込もうとする。暫く力比べが続いた後、とうとう六兵衛の怪力が勝って、子供を岸に投げ飛ばした。
六兵衛が怒りの形相で「お前を半殺しにしてやるぞ」と脅しつけると、子供は見るみる内に大ガメの正体を現わし「命だけは助けてくれ。俺があんたの代わりに御宮さんの草むしりをするから」と涙ながらに命乞いをした。六兵衛はその様子を見て大ガメが哀れになり、大ガメを沼に戻してやった。
それから暫くして、六兵衛は亡くなった。そして六兵衛が亡くなった後、不思議な事にあの御宮の境内には一本も草が生えなくなった。それはあの沼の主の大ガメが六兵衛との約束を護って、夜になると御宮の草を一本一本むしっては食べているからだ、と人々は噂した。
人々はその御宮さんの事を「六兵衛神社」と名付け、六兵衛を偲んだと言う事だ。
(投稿者: 熊猫堂 投稿日時 2013-9-22 15:23 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 清酒時男(未来社刊)より |
出典詳細 | 加賀・能登の民話 第一集(日本の民話21),清酒時男,未来社,1959年08月31日,原題「草かり亀」,江沼郡誌より |
場所について | 小松市額見町の気多御子神社 |
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