昔、三重の菰野の辺りにおかしな夫婦がいた。亭主は、一日中あやめの花ばかり眺めて、まるで女みたいな性格、一方の女房は力持ちで男勝りな性格だった。ある日、亭主はあまりにも女みたいだから、歌舞伎一座の女形になろうと、京の都へ旅立っていった。
さて、亭主が京に出てから数年経ち、またあやめ花が咲く季節になった。そんなある日、亭主の家に旅姿の美しい娘が訪ねて来た。娘は家に入ると、「こちらのご亭主に縁のある者です」と女房に挨拶した。
娘を亭主の愛人だと思った女房は、カンカンになって怒り、さんざん娘を引っ掻いて家から追い出してしまった。
実はこの娘、女形に扮した亭主だったのだ。家から追い出された亭主は、女房までも自分の芸で騙す(だます)ことが出来たと、内心喜んでいた。亭主は村はずれで着替え、化粧を落とすと、あらためて我が家に戻った。
しかし 愛人を作った亭主を女房が許すはずもなく、亭主はまたも女房にさんざんひっぱたかれてしまう。「待て待て、あれはワシが化けておったのじゃよ。」と亭主は言うが、女房は「いくらなんでもあそこまで上手く化けられる訳がない!この大嘘つきめ!」と言って聞く耳をもたない。亭主はまたも家から叩き出されてしまった。
しかしいくら亭主の芸が上手くても、女房が亭主の顔を見忘れるものではない。実は女房、娘が亭主の変装であることを見抜いていたのだ。それでもわざと騙されたふりをして、亭主に自信を持たせようとしたのだ。
このことがあってから、亭主の芸には一層磨きがかかり、名も芳澤あやめと改め、押しも押されぬ立女形(たておやま)として一世を風靡(ふうび)したといことだ。
(投稿者: マニアック 投稿日時 2011-10-22 20:32 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 三重県 |
場所について | 菰野町吉沢 (あやめ塚は源正寺の南にある) |
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