昔々、種子島にスズメどんが住んでいました。
スズメどんは毎年卵を生み、子を育てて居ましたが、子供を育てる度に恐ろしい鬼がやって来て、子供をみんな食べてしまうのでした。とうとう堪え切れなくなったスズメどんは鬼退治に出かける事にしました。
藁しべを1本鉢巻きの代わりに頭に巻いて、スズメどんが意気揚々と歩いて行くと、途中で仲間を鬼に踏みつぶされたマテバシイの実と、兄の縫い針を折られたまち針と、兄弟を喰われたムカデと、更にモクズガニとべったぁ(牛のふん)と荒縄と臼が仲間に加わり、一緒に鬼退治に行く事になりました。
途中、川に行きあたると臼が船代わりになって皆を渡し、やっとの事で鬼のすみかである鬼が島に辿りつきました。鬼は出かけていて留守でした。スズメどんと仲間達は相談して、マテバシイの実は囲炉裏の灰の中に、まち針は囲炉裏の縁に、ムカデは味噌瓶の中に、モクズガニは水桶の中に隠れ、べったぁは出入り口にへばりつき、荒縄と臼は出入り口の上に控えました。
やがて鬼が小脇に魚を抱えて戻って来ました。鬼が捕らえた魚を焼いて食べようと火をおこすと、灰の中からマテバシイの実がはじけて鬼の鼻っ面を潰しました。鬼が驚いているとスズメどんが現れ「喰われた子供の仇打ちだ、今日こそ思い知れ!」と叫びながら頭をつつきました。鬼が「何を小癪な!」とスズメどんを追うと、囲炉裏端のまち針を踏みつけて大怪我をしました。傷口に味噌を塗ろうとするとムカデに指を噛まれました。水で冷やそうとするとモクズガニに挟まれました。
進退きわまった鬼が逃げようとするとべったぁを踏みつけて滑り、夢中で出入り口に下がっていた荒縄を掴んだ拍子に臼が頭上に転げ落ちてきて頭をしたたかに打ちました。流石の鬼もすっかり参ってしまい、「命ばかりは助けてくれ」と泣き叫びながら逃げてしまいました。
こうして、鬼退治はスズメどんと仲間達の勝利に終わりました。その後スズメどんは無事に子育てしたと言う事です。
今でも種子島にはスズメが沢山いますが、あれは御先祖様の武勇伝を語り継いでいるのかも知れません。
(投稿者: 熊猫堂 投稿日時 2012-10-19 9:07 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 下野敏見(未来社刊)より |
出典詳細 | 種子島の民話 第二集(日本の民話34),下野敏見,未来社,1962年11月25日,原題「スズメどんの鬼征伐」,採録地「西之表市下能野」,話者「山下正吉」 |
備考 | 鹿児島県の種子島 |
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