昔、飛騨の山奥での話。
冬の間近い秋の終わり、ある男が山道で倒れていた。そこへ近所の百姓の金衛門が通りかかった。その男は何人もの人を殺した大罪人で、江戸から上州、信州と逃げ回ってきたがここで力つきてしまったのだと言う。
金衛門が、大罪人に水を飲ませてやると、大罪人は礼を言って息絶えた。金衛門は大罪人の男を土に埋め、ねんごろに葬ってやった。
この年は夏からの飢饉で百姓一揆が相次ぎ、その首謀者と家族達はどこまでも追い詰められ殺されていった。
次の年の初夏のある夜。金衛門の家の前を、大勢の足音や荷車の音がした。不思議に思った金衛門が外へ出てみると、家の前の橋のたもとに人魂がゆらめいていた。
物音は、次の夜もまた次の夜も続いた。金衛門の家では水瓶の水が吹き出したり、米俵がひっくり返されたり、子供が宙に浮いたりという怪現象が起きるようになった。そのため妻は寝込んでしまった。
金衛門が気味の悪い怪現象に困りはて、半狂乱になっていると、家の外から「金衛門さん…」と呼ぶ声がした。そこにはいつか水を飲ませてやった大罪人の幽霊が立っていた。大罪人の幽霊は「なるべく早く他へ移りなせえ、ここは亡者の通る道じゃから…」と、言い残し去って行った。
金衛門が目をこらして見ると、家の中にたくさんの幽霊が行き交い、外の橋には無数の幽霊が列をなして渡っていくのが見えた。金衛門の家が、ちょうど地獄へ向かう亡者の魂が通る道の上に建っていたのだ。
この事実を知った金衛門は、家を橋から離れた所へ移した。そして橋のたもとに経塚をたて、亡者の霊をねんごろに弔ってやった。
(引用/まんが日本昔ばなし大辞典)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 清水真弓(角川書店刊)より |
出典詳細 | 妖怪と人間(日本の民話07),辺見じゅん=清水真弓,角川書店,1973年4年20日,原題「飛騨の金右衛門」,伝承地「岐阜県」 |
リメイク情報 | 飛騨国 |
場所について | 亡者が向かった地獄谷(地図は適当) |
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