むりどん 話者: 清水 こと 再話: 井田 安雄(群馬県新田郡藪塚)S52
むかあしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがあったと。 住んでいる家はもう古くなって、雨の降るときはポタンポタン雨漏りがしていたんだと。
ある夜、おじいさんがおばあさんに、 「世の中で、なんていったって、一番怖い物はオオカミだな」というとおばあさんは 「オオカミも怖いけどおじいさん、わしゃむりどんが一番怖いよ」おじいさんも 「そうだな、こんな時はむりどんのほうが怖いかもしれないな」と話していたんだと。
そのとき、やまのオオカミがおじいさんの飼っている馬を食おうと、家の外に来ていたが この話を聞いて 「俺が一番強いと思っていたが、俺より怖い物がこの世にいるのか。いったいむりどんってなんだろう」と独り言を言って思わずウオーと吠えたんだと。
家の中のおじいさんは、オオカミの声を聞いて、たまげて大声を上げて、馬に飛び乗ってにげだしたんだと。
だが、お爺さんの乗ったのは馬ではなくて、ほんとはオオカミだったのさ。オオカミはたまげてしまったよ、自分の背中に乗り、首っ玉をしっかり押さえられたので、これは、てっきり自分より怖いむりどんに違いない。とって食われれてはたまらないと思って夢中で駆けだしたんだと。
おじいさんはおじいさんで、振り落とされちゃあ困ると思って、首っ玉に思いっきりの力でしがみついたんだと。オオカミは、首を絞められるんで、食われちゃ困ると背中のむりどんを振り落とそう、振り落とそうと、やたらに駆け回ったんだと。
さんざ山の中を駆けたあげく、夜明け近くなって、お爺さんがのっていた、馬をよく見ると、それがオオカミだったので、お爺さんは、また、たまげて 「ウワアー」と大声をだして、しがみついた手を離して背中から飛び降りたんだって。 オオカミはオオカミできつかった首が楽になり、むりどんを背中から落とせたので一安心、やっとの事で助かったと思って、あとも見ずに山の中に逃げていったとさ。
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