昔、悪たれ婆さんが死に、生きている間にあくどく貯めた金を握りしめて、地獄に落ちた。
婆さんは、全てのお金をえんま大王に差し出し、極楽に行かせてもらえるように頼んだ。するとえんま大王は「ばかもの。極楽に行かせてもらうには、良いことをしたことのある者でなければならぬ。」と言った。
婆さんは「わしは一度だけ良いことをした。旅の乞食坊主に腐った人参を渡した事がある」と言い、しばらく考えていたえんま大王は「たとえ腐ったニンジンにせよ、人に施(ほどこ)し物をするという心があったならば、極楽に行かせてやろう。血の池に浮かぶ人参にすがれ。」と、婆さんに言った。
婆さんは「これで極楽に行ける」と大喜びし、血の池に浮かんでいた人参を手にした。人参は婆さんと一緒にするすると極楽に向かって高く高く登りはじめたが、この様子を見た他の亡者たちは次々に婆さんの足につかまった。
焦った婆さんは「大勢の人が捕まったら、その重みで人参が崩れてしまう」と、足につかまる他の亡者たちを足でけり落とした。と同時に、婆さんの持っていた人参はホロリと崩れ、婆さんは再び地獄に落とされた。
自分さえ良かったら他人はどうでもいい、という卑しい根性だった婆さんは、結局極楽へは行けなかった。この様子を見ていたえんま大王は「やっぱり悪人は悪人だったな」と言い、極楽の仏様は小さくため息をついた。
(投稿者: 深谷 麻理 投稿日時 2013-8-20 23:07)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 三間稿本より |
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