むかしむかし、ある所にお爺さんとお婆さんが住んでいた。この二人は村でも評判の仲良し夫婦で、野良仕事するときも、食事も、寝るときもいつも一緒だった。そんな2人だったので、お互い後家入りはしない、後添えはもらわないと約束しあっていた。
ところが人間の命とはわからないもので、それからしばらくして、爺さまはぽっくりと逝ってしまった。婆さまはすっかり力を落としてしまったが、お茶が好きだった爺さまのことを思い出し、あの世の爺さまが不自由しないように、土瓶と湯のみをあの世に送ろうと思い立った。
そこで婆さまは、弓張り巫女(ゆみはりみこ)の所へ行き、どうしたらあの世に茶道具を送れるかと尋ねた。巫女はしばらく考えて、川に流せば川が運んでくれると言うので、婆さまは茶道具をお盆に載せて川に流した。
さて、季節は移り雪が舞い始める頃、婆さまは寒がりだった爺さまのことを案じ、今度は綿入れをあの世の爺さまに送ろうと思った。そしてまた弓張り巫女の所に行くと、巫女は木の枝に掛ければ、風が運んでくれるだろうと言う。そこで、婆さまは山の上の木の枝に綿入れを掛けておいた。
それから更に時は経ち、春のお彼岸がやってきた。この日は、弓張り巫女が口寄せをすると言うので、婆さまもあの世の爺さまに会いたい一心で、巫女に口寄せをお願いした。
巫女は、手に取った棒で弓に張った弦をはじき、あの世にいる爺さまの霊を降ろした。そこで婆さまは、茶道具や綿入れがちゃんと届いたかどうか爺さまに聞いた。爺さまが言うには、届くには届いたが、茶道具は川に流したのであっちこっちにぶつかり、土瓶の柄だけが届き、綿入れは木に掛けたのでボロボロになって届いたということだ。
それではあの世で爺さまは、茶も飲めず寒い思いをしているのだろうと思い、婆さまは爺さまのことが不憫でならず、思わず泣き出してしまう。ところが爺さまは、何も不自由はしていないと言う。実は爺さま、閻魔大王様の仲人で三途の川の婆さと一緒になるのだ。そういう訳で、何も心配は要らないという。この一言を聞いて婆さまは、「あんなに後家入りはしねえと、約束したでねえか!!あんまりだ!!」と巫女の胸ぐらに掴みかかるのだった。
婆さまは悔しくてならなかったが、三途の川の婆さというので、どうせ鬼のような女だろうと思うと少しはあきらめもついた。
さて、ちょうどその日はお祭りで、村の入り口には屋台やら見世物小屋などが並んでいた。婆さまがある小屋のそばと通ると、そこでは地獄、極楽などあの世の様子を描いた絵巻物が売られている。その絵巻物の1つには三途の川の婆さが描かれているではないか。そして、なんとそこに描かれた三途の川の婆さは、婆さまの予想に反して若く綺麗な娘だった。
爺さまがあんな若い娘と一緒にいると思うと、我慢が出来なくなった婆さまは、その絵を1枚買って家に帰り、「男というものは、いくつになってもしょうもない!!」と言いながら、三途の川の婆さの顔に墨で大きくバツ印をつけてしまった。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2011-11-3 17:05)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 松谷みよ子(角川書店刊)より |
出典詳細 | 太平の天下(日本の民話09),松谷みよ子,角川書店,1973年11年25日,原題「三途の川のばばさ、後家入り」,伝承地「東北地方」 |
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