昔、三河のある村で、ボロボロの衣をきたお坊さんが家々を回っていました。この辺りは街道に近くて、毎日沢山のお坊さんがやってくるので、村人たちも毎回は食べ物を恵んであげる事はありませんでした。
結局、何も食べ物をもらう事ができなかったお坊さんは、もうお腹ぺこぺこで村はずれの大きな栗の木の所までやってきました。そこで遊んでいた村の子供たちに出会い、お坊さんは三日ぶりに焼き栗を二粒ご馳走になりました。
嬉しそうに栗の実を食べているお坊さんを見ていた子どもたちは「もっと焼いて食わせてあげよう」と、背の高い栗の木にするすると登り、栗の実を沢山とりました。子どもたちの栗のおもてなしで、お腹いっぱいになった坊さんはトロトロと昼寝をはじめました。
その間に、子どもたちは「山で行き倒れにならないように」と、さらに沢山の焼き栗を用意してあげました。夜になり目を覚ましたお坊さんは、袋いっぱいの焼き栗を見て、子どもたちの優しい気持ちに嬉しくなりました。
お坊さんは、何かお礼をしたいと考え「今後、この高い栗の木から子どもたちが落ちて怪我をしないように」と、心の底から一心に祈りました。すると不思議な事に、栗の木が地面にどんどん埋まりはじめ、背の低い木になりました。
翌朝、背が低くなっている栗の木を見つけた村人たちは「あのお坊さんはきっと弘法大使に違いない」と噂しあいました。この栗の木は「しば栗」と呼ばれ、いつまでも子どもたちの安全な遊び場として、大切にされました。
(紅子 2012-9-1 3:10)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 寺沢正美(未来社刊)より |
出典詳細 | 三河の民話(日本の民話65),寺沢正美,未来社,1978年04月10日,原題「しばぐり」,採録地「東加茂郡」,採集「安藤正夫、那須邦子、渡辺勇」 |
このお話の評価 | 9.93 (投票数 15) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧