昔、ある山奥の寺に、和尚と小僧さんが住んでいた。
小僧さんは働き者で、朝から冷たい谷川の水で洗濯、境内の掃除に食事の支度と忙しくしていた。一方の和尚は大変な怠け者で、いつも朝寝坊ばかりしていた。そのくせ「ワシは和尚、お前は小僧。ワシの方が偉いんじゃ。分かるな?」と口癖のように言い、小僧さんに威張り散らしていた。
そんなある朝、小僧さんが掃除をしていると、廊下の柱に虫食いを見つけた。虫食いは文字になっており、「この寺の和尚より、山の奥のしゅうざがマシだ。」と読める。これを聞いた和尚、虫ごときに面目をつぶされてはたまらないと、早速寺の裏山を登り、しゅうざという者に会いに行くことにした。
しばらく山を登ると、一軒の小さな家があり、そこには老夫婦が住んでいた。和尚は家に上がり込むと、これまでの経緯(いきさつ)を話した。
しゅうざ夫婦が言うには、自分たちは特別偉いという訳ではないが、ただ毎日仏様と話をするのが楽しみなのだそうだ。そして、もうすぐ極楽から使いが来て、雲に乗って極楽に行けるのだと言う。和尚は驚いて、その時にはぜひ自分も連れて行ってくれと頼んだ。するとしゅうざ夫婦は、その時は雲の上から和尚の名を三回呼ぶので、ハイと答えるように言った。
それからは、さすがの怠け者の和尚も朝早くから起き、しゅうざ夫婦の迎えを今か今かと待っていた。ところがしばらくすると、和尚はいつもの怠け癖が出てしまい、また朝寝坊するようになってしまう。
そんなある朝、小僧さんが洗濯をしていると、らっしょういんと何者かが和尚の名を呼ぶ声が聞こえる。三回和尚の名を呼ばれたところで、小僧さんは「ハイ。」と返事をした。すると、しゅうざ夫婦を乗せた五色の雲が降りてきて、小僧さんを雲に乗せると、そのまま西の空に向かって飛び去って行く。
これを見た和尚は地団駄を踏んで悔しがったが、もう後の祭り。小僧さんがいなくなったので、和尚はそれから食事の支度など全て自分でしなければならなかった。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-12-17 13:40)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 鳥取県の民話(偕成社刊)より |
出典詳細 | 鳥取県の民話(ふるさとの民話7),日本児童文学者協会,偕成社,1978年10月,原題「ごくらくにいった小僧さん」,再話「稲田和子」 |
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