昔、海辺の村にやじろうという名前の独り者の若者がおった。
ある日、仕事を終えて家に帰る途中、村の神社の所で一人の美しい娘に出会った。娘は山奥の村の生まれで、村を追われてきたのだという。そしてやじろうの家に連れて行ってほしいと頼むのであった。
やじろうが家のすぐ手前まで来たときに、山犬が姿を現した。恐怖で動けなくなってしまったやじろうであったが、後をつけてきた娘が山犬をにらみつけると山犬は去って行った。やじろうはおどろいて気を失ってしまった。
気が付くと自分の家の中であり、娘が食事の支度までしてくれていた。娘はやじろうに、自分を嫁にもらってほしいという。そしてやじろうは娘と一緒に住むことにした。しかし、この娘こそ「山犬の王」だったのである。
その頃、山奥の村では大規模な山犬狩りが行われていた。狩人が「山犬の王」に対して、山刀で切りつけたところ、額に傷をつけることができた。そして「山犬の王」は血を流しながら姿を消した。
翌朝、やじろうが目を覚ますと、娘は家の裏で転んだといって、額をけがしていた。そこへ血の跡を追ってきた狩人が、やじろうの家にやってきた。やじろうは「山犬などいない」と狩人にいい、一度は引き上げた狩人であったが、その夜再びやじろうの家にやって来た。
「今夜一晩、止めてほしい」というのである。娘が「泊めてはならない」と強く拒否すると、額の刀傷があらわになった。娘は「山犬の王」にみるみる姿を変えた。そして狩人に打ち殺されてしまった。
やじろうはいつまでも、そこに座り込んでしまった。それにしてもなぜ、「山犬の王」はやじろうのところに来たのか。「山犬の王」は海辺の暮らしにあこがれていたのであろうか。
(投稿者: カケス 投稿日時 2013-10-27 18:42 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 瀬川拓男(角川書店刊)より |
出典詳細 | 残酷の悲劇(日本の民話10),瀬川拓男,角川書店,1973年6年25日,原題「山犬女房」,伝承地「九州地方」 |
このお話の評価 | 7.75 (投票数 4) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧