昔、岐阜の下呂村に仲の良い夫婦が住んでいた。
ある日のこと、亭主が野良仕事に出かけると、畑の横の草むらに親とはぐれた一匹の子猿を見つけた。この亭主は優しい男で、腹を空かせていた子猿に自分の弁当を半分わけてあげた。すると子猿は、帰り際に亭主の後について来たのだ。亭主はこの子猿を自分の家で飼うことにし、女房のハルも、この子猿を「さるや、さるや」と呼んでたいそう可愛がった。
そして子猿は成長すると夫婦の仕事の手伝いをするようになった。さるやは畑仕事の手伝いや、時には亭主に代わって馬を家まで曳いて帰ったりもした。
やがて養蚕(ようさん)の時期になり、夫婦は蚕の世話に忙しく働いていた。ところがどうしたことか、この年はネズミがたくさん出て、夜中に大事な蚕が食い荒らされることが度々あり夫婦は困ってしまった。すると、利口なさるやは夫婦の心配を察したのか、自分が蚕の番をするというような仕草をした。
こうして、さるやが夜中に蚕の番をしてくれたおかげで、夫婦は大助かり。今まで以上に仕事に精を出すことが出来た。そしてネズミの被害もなくなり、その年は良い繭(まゆ)がたくさん取れた。
さて、何年もの歳月が過ぎ、夫婦から愛されたさるやも寄る年波には勝てず、ある年の春とうとう死んでしまった。夫婦はたいそう悲しみ、さるやの墓を下呂森八幡のそばの畑の横に作ってあげた。
そしていつごろからか、この墓の小石を持ち帰って祀ると、ネズミの害がなくなるという話が広まった。今ではこの石のことを、さるやの石と呼んでいる。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-7-21 19:46)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 江馬三枝子(未来社刊)より |
出典詳細 | 飛騨の民話(日本の民話15),江馬三枝子,未来社,1958年12月20日,原題「さるやの石」 |
場所について | さるやの墓は下呂村森八幡の向かいの畑の中※出典本により |
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