ずうっと昔のこと。隅田川の河口は、洲崎あたりで有明海にそそいでおり、そこは白砂の浜になっていて、それは美しい所でした。この辺りの村人は夕方になると、野良仕事で汚れた馬をこの浜に引いてきて、綺麗に洗ってやるのが習わしでした。
ある日、寺尾の「吾市」という若者と父親が馬の「アオ」を洗いに浜にやってきました。吾市がアオを洗ってやっていると、突然、アオが「ヒヒーン!」といなないて暴れ始めました。そうしてアオは、何かとても強い力でずるっ!ずるっ!と海の中へ引き込まれてしまいました。
村では、それからも馬が海に引き込まれる事件が続きました。「海の神様がこぎゃん悪戯ば、しなはるはずがなか。きっと何かほかのもんに違いなか。」アオが可哀そうでならない吾市は、岬の松の上から海を見張ることにしました。
そして七日目の夕方のこと。浜にはいつものように馬を洗う村人達の姿がありました。と、突然、海の底から見たこともない程の大ダコが現れ、吾市が危険を知らせる暇もなく、馬を海の中に引き込んでしまいました。怪物の正体は大ダコだったのです。
吾市と村人達は、大ダコ退治のために鉄でできた「金馬」を作り、浜に仕掛けました。金馬の胴の中には火のついた炭を入れ、4本の脚は浜に打ち込んだ杭にしっかりと結びつけているのです。そうして、今や金馬の胴や背は真っ赤に焼けて、うすい煙が立ちのぼっているのでした。「海に住むもんが火の恐ろしさを知るはずがなか。大ダコめ、真っ赤に焼けた鉄の恐ろしさを思い知らせてやる。」
やがて金馬に気づいた大ダコは、いつものように馬を海へ引きこもうと足をのばします。しかし、金馬はびくとも動きません。焦った大ダコは、全身を金馬の胴体に巻きつけて一気に海へ引き込もうとしました。ところが相手は真っ赤に焼けた金馬だったからたまりません。大ダコの体はジュウジュウと音を立てて燃え上がりました。それからしばらく、浜には大ダコの焼ける異様な匂いが漂っていたといいます。
こうして吾市はアオの敵をうつことができ、村人たちも安心して馬を洗うことができるようになったということです。
ナレーション | 未見のため不明 |
出典 | クレジット不明 |
出典詳細 | 熊本のむかし話(熊本県小学校教育研究会国語部会,日本標準)に同名のお話あり、舞台は天草の下島の佐伊津村とのこと |
場所について | 天草市佐伊津町の金ヶ丘(かながおか) |
このお話の評価 | 10.00 (投票数 1) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧