昔、信州中野鴨ヶ岳(かもがたけ)の麓に小館城(こたてじょう)という城があり、城主の高梨摂津守政盛(たかなしせっつのかみまさもり)には黒姫という美しい姫君がいた。
ある春の日の事、政盛達が花見の宴の最中に一匹の白い蛇が現われ、上機嫌の政盛は黒姫に蛇にも酌をしてやるよう勧めた。黒姫が盃を蛇の前に差し出すと蛇は酒を飲み、しばらく黒姫を見つめた後去っていった。
その夜、黒姫の所に一人の立派な若者が訪れ、黒姫に自分の妻になって欲しいと言う。若者の言葉に黒姫は戸惑い、まずは政盛から許しをもらうよう答えると、若者は自分が来た印として鏡を置き消えていった。
若者は大沼池の主の黒竜であり、昼間の宴で黒姫に盃をもらって以来黒姫の事が忘れられなくなったのである。黒姫をさらうのは道理に反するため、若者は毎日城に通いつめ政盛に同じ願いを繰り返したが、政盛も大事な娘を竜の化身に渡すわけにはいかず、若者の申し出を断り続けた。
そして若者が訪れてから100日が経ち、政盛は明日馬で城の周りを21回走り、その後を遅れずについてくる事ができれば黒姫をやると若者に約束した。翌日、政盛が馬に乗り城の周りを走り始めると若者も自らの足で後を追い始めたが、若者はやがて疲れ出し黒竜の姿に戻ってしまう。
途中家来達に邪魔されながらも黒竜は死に物狂いで21回走り終えたが、政盛は約束を破り黒竜を切り殺そうとする。この仕打ちに黒竜は激怒し、怨みの言葉を吐くと傷付いた体で鴨ヶ岳の頂上へと昇っていった。
その途端、辺り一面は大嵐に見舞われ、激しい風雨と洪水が罪も無い村人達を襲った。心優しい黒姫はこれを見て、約束を守るのでどうか嵐を鎮めて欲しいと黒竜に呼びかけ、黒竜の鏡を空に投げた。すると黒雲の中から黒竜が現れ、黒姫を背に乗せると大沼池を捨て新しい山へと向かい飛んでいった。
こうして黒竜と黒姫は新しい山に一緒に住む事になり、それ以来この山は「黒姫山」と呼ばれ、今も山頂には黒竜と黒姫が幸せに暮らしているという。
(投稿者: お伽切草 投稿日時 2013-7-1 19:14)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | (表記なし) |
DVD情報 | DVD-BOX第10集(DVD第48巻) |
VHS情報 | VHS-BOX第1集(VHS第10巻) |
場所について | 黒姫山 |
本の情報 | サラ文庫まんが日本昔ばなし第12巻-第059話(発刊日:1977年2月15日)/童音社BOX絵本_第55巻(発刊日不明:1970~1980年頃)/国際情報社BOX絵本パート2-第095巻(発刊日:1980年かも)/講談社テレビ名作えほん第011巻(発刊日:1977年10月) |
サラ文庫の絵本より | 絵本巻頭の解説によると「長野県の昔ばなし」 |
童音社の絵本より | 絵本巻頭の解説(民話研究家 萩坂昇)によると「長野県の昔ばなし」 |
講談社の300より | 書籍によると「長野県のお話」 |
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