昔、信州のある村に、仲の良い夫婦と一匹の馬がいた。七年たってやっと産まれた女の子が、夫婦の一番の宝物だった。娘はすくすく育ち、馬もこの娘がかわいいようで、馬小屋に引き入れては仲よく遊んでいた。
春になったある日、家で留守番していた娘がいなくなった。大慌てで探しまわったがどこにも見つからず、一晩中探し回って家に戻ってくると、娘は馬小屋で眠っていた。両親はいそいで娘を馬から引き離し、どうしても馬を許せなかった父親は、山に連れて行って殺してしまった。
それを知った娘は大泣きし「馬のところへ行く」と言って、家から飛び出した。娘可愛さに馬を殺した罰だろうか、娘は竜巻にまかれて天高く舞い上がりそのまま姿を消した。
時が過ぎ、夫婦は魂が抜けたように空を見上げていると、愛しい娘が馬に乗って空を駆けている姿を見た。そして馬の顔に似た二匹の虫が、一枚の木の葉に乗ってひらひらと落ちてきた。
この虫の背には、馬の蹄(ひづめ)のような模様があり、馬のように桑の葉をモリモリ食べた。美しい糸を吐くこの虫を、夫婦は娘のように大切に育て、数を増やして村人たちにも分けてあげた。これが養蚕の始まりです。
(紅子 2011-12-5 1:51)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 長野県 |
講談社の300より | 書籍によると「長野県のお話」 |
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