昔、ある村の入口に塞の神(さいのかみ)が立っていて、その横には与太郎(よたろう)という男の家があった。与太郎は働きもせず、女房と子供をほったらかし、毎日サイコロ遊び(博打)に明け暮れていた。
さて、その年の冬のこと。諸国の神さまが、出雲の国の寄合いから帰って来ると、今度は入れ替わりに全国の厄病神(やくびょうがみ)が出雲に集まることになっている。12月8日の朝、この村の厄病神も出雲に旅立つので、塞の神の所にあいさつにやって来た。
厄病神は来年の2月8日に帰って来ると言い、出発するにあたり、帳面を一冊預かってもらいたいと塞の神に頼んだ。この帳面には、怪我や火事など、来年この村で起こる一切の災難が書いてあるのだ。塞の神がこれを読んでみると、なんと1月14日、与太郎方火事と書いてあるではないか。塞の神は、この火事をなんとかしてもらえないかと厄病神に掛け合うも、もう種を仕込んだのでどうにもならないと厄病神は言う。
塞の神は、何とかしてこのことを与太郎に知らせようとするが、神様の声は人間には届かない。塞の神が歯がゆい思いをしているうちに、正月が過ぎ、とうとう1月14日の早朝を迎えてしまった。塞の神は、ここで一計を案じ、寝ている与太郎に夢で火事を知らることにした。ところが与太郎、火事の夢を見て飛び起きたのはいいが、火事の夢とは縁起がいい言い、またサイコロ遊びに行ってしまう。
そしてとうとう夜が来て、与太郎の女房と子供が寝ていると、家の台所から火の手が上がった。塞の神は慌てて、今度は与太郎の女房に子供が井戸に落ちる夢を見させて女房を起こした。こうして、与太郎の家は焼け落ちてしまったものの、塞の神のおかげで女房と子供は命びろいした。このことがあってから、与太郎はピタリとサイコロ遊びをやめたそうだ。
2月8日、村ではこの日2つのまじないをする。1つは、豊作を祈って餅をわらで作った馬につけ、塞の神にお供えすること。そしてもう1つは、出雲から帰って来る厄病神を家に入れないように、ネギやからしを火にくべて、軒先で煙を立てることだ。
煙を焚かれ、咳き込みながら村に帰って来た厄病神、塞の神の所に預けた帳面を受け取りにやって来た。すると塞の神は、懐から白紙の帳面を取り出して厄病神に渡した。「はて?何も書いてないとはおかしい。」といぶかる厄病神だったが、塞の神は知らんぷり。実は、災難が書いてあった帳面は、与太郎の家が火事の時に、塞の神が火にくべて燃やしてしまったのだ。こう言う訳で、その年は村には1つの災難も起こらなかったそうな。
(投稿者: やっさん 投稿日時 12-31-2011 12:57)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 長野県 |
備考 | さえの神、とも読む。 |
講談社の300より | 書籍によると「長野県のお話」 |
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