昔、猿とつがね(川蟹)が山の中で仲良く暮らしていた。
ある日、猿がつがねにこう言った。「なあ、つがねどん、たまには餅をついて食いてえのう」つがねも餅を食いたいのはやまやまだったが、肝心の米がない。そこで、谷川を下った先の一軒家に行き、米を分けてもらうことにした。
こう話が決まると、早速猿とつがねは川を下り、一軒屋の前にやって来た。そして嫁さんが洗い場に来ると、つがねはこう言った。「あねさん、あねさん、お米を少しくれろ。くれないとハサミで挟むぞ。」
すると、嫁さんは一掴(つか)みの米をつがねにくれた。こんなことを毎日繰り返しているうちに、とうとう貯まった米は1斗(いっと:18リットル)にもなった。
猿とつがねは、この米で早速お餅をつくことにした。猿はかまどで米を炊き、その間につがねが餅をつく臼(うす)と杵(きね)を作る。ところが、臼はちゃんと出来たものの、杵が曲がってしまった。つがねは急いで杵を作り直すことにした。
ここで、杵が出来るのを待っていた猿に悪い考えが浮かんだ。「今の内に餅をついてしまえば、餅を独り占めできる」猿は曲がった杵で餅をつき、出来た餅をつがねが登ってこられない木の上に載せてしまった。
杵を持って戻って来たつがねは、これを見て怒ったが、どうすることも出来ない。その時つがねは、「西の風が吹いたら木の葉が落ちる」と自分の爺さまが言ったことを思い出した。そこでつがねは、一心に「西の風よ吹け!」と念じた。すると、つがねの思いが天に通じたのか、強い西の風が吹き、木の葉を餅と一緒に全部落としてしまった。
今度は、つがねが落ちてきた餅を拾い、自分の巣穴に入れた。猿は餅を分けてもらおうと、巣穴に入ろうとする。ところが、猿が顔から入ろうとすると、つがねがハサミで猿の顔を挟む。尻から入ろうとすれば、お尻を挟む。こんな訳で、猿の顔と尻は真っ赤に腫れ上がってしまった。
猿はたまらず、自分の毛と交換で餅を分けてもらうことにした。こうして二匹は仲直りして、餅を分け合って食べた。つがねの親指には、この時猿にもらった毛がまだ残っている。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2015/5/4 16:30)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 村田煕(未来社刊)より |
出典詳細 | 薩摩・大隅の民話(日本の民話28),村田煕,未来社,1960年08月25日,原題「猿とつがねの餅つき」,採録地「甑島」,甑島昔話集より |
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