昔、越後と信濃の国境に、野々海(ののみ)と呼ばれる池があった。ここには龍神とも白蛇とも言われる主が住んでおり、時々人間の美しい娘の姿を借りては池の上に現れた。
そんなある時、越後の国にある加茂が池の主が、この美しい娘を自分の嫁にしたいと言いだした。加茂が池の主はどろどろした池の底から毎日のように、「野々海の主よ、わしのところに嫁に来い」と叫び続けていた。野々海の主はその声を聴くと、身の毛もよだつような思いになるのであった。
ある日、野々海の池に加茂が池の主が人間に姿を変えてやってきた。「何故わしの嫁になってくれんのじゃ」と言う加茂が池の主と、それを突っぱねる野々海の主。今度の大雨の日に必ずお前を迎えにくるぞと言い残し、加茂が池の主は巨大な水柱を立てて帰って行った。
ちょうどその時、一人の旅の武士がこの光景を見ていたのであった。武士は、善左衛門と名乗って娘から今までの話を聞き、この美しい娘を何としても救おうと決心したのだった。それから数日間は何事もなく穏やかな日々が続き、その内二人の間に愛が芽生え始めた。
そして、ついに大雨が降りだし、加茂が池の主がやってきた。野々海の主は白蛇の姿となり、巨大な蛙の正体を現した主の首に巻きつき、善左衛門が刀で切りつけた。蛙はそのまま加茂が池へと逃げていき、二度と人間の前に姿を見せることはなくなったという。
そして野々海の主は、この時に死んでしまった。主のいなくなった野々海の池は水が枯れ果て、今では跡形もなくなっているという。そしてこの時善左衛門が切りつけた刀は、今でも名刀として大滝村に残っている。
(投稿者: kokakutyou 投稿日時 2012-6-24 14:40 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 瀬川拓男(未来社刊)より |
出典詳細 | 信濃の民話(日本の民話01),信濃の民話編集委員会,未来社,1957年06月30日,原題「野々海の物語」,採録地「下水内郡」,話「飯山市飯山の吉水清宏」,再話「瀬川拓男」 |
場所について | 野々海池 |
このお話の評価 | 7.80 (投票数 5) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧