むかしある所に、貧しいが正直者の爺さんが住んでおった。
ある年の大晦日の夜、爺さんは来年こそは良い暮らしができるよう神様に祈った。そうしてその夜、爺さんは夢の中で自分を呼ぶ声を聞いた。爺さんが声の方に行ってみると、雲の上に真っ白な髭の爺様が待っておった。
白髭の爺様は「あんたは婆さんが死んでから、台所に残飯を捨てっぱなしにしておるじゃろ、あれをきれいに片づけてドブ掃除してみい。良いことがあるわい。」と言うたそうな。爺さんは婆さんが死んでから、後片付けがおっくうで残飯をほったらかしにしておったんじゃと。
夢から覚めた爺さんは、婆さんがおらんことが無性に寂しゅうなったが、早速台所の汚れものを片づけ、ドブ掃除をしたそうな。掃除が終わって爺さんが足を洗っておると、一匹のねずみが現れた。ねずみは桶の水に飛び込み、あっという間に真っ白なねずみになった。
爺さんが白ねずみを手拭に包んで抱き上げると、たちまち手拭の中から重ね餅が出てきたそうな。白ねずみはそれからもずっと爺さんの家に居ついて、正直爺さんの家では良いことばかりが続いた。
ところがこの話を聞いた隣の欲張り爺さんが、無理やり白ねずみを借りてきて、自分の家の神棚に放したそうな。じゃが、白ねずみは怒って神棚から姿を消してしもうた。欲張り爺さんは、白ねずみを捕まえようと部屋中に餅をばらまいて罠を仕掛けた。
二、三日たった夜、欲張り爺さんの家に数えきれんほどの白ねずみが現れた。じゃが、欲張り爺さんが白ねずみを捕まえると、捕まえたとたん、みんな黒ねずみになってしまうのじゃった。実はな、これはもともと黒ねずみだったのが、粉を被って白ねずみになっていただけじゃったのじゃ。黒ねずみに囲まれて欲張り爺さんは生きた心地もせんかったそうな。
そうして本当の白ねずみはというと、正直爺さんの家にちゃんと帰っておったそうな。
昔本当におったそうじゃ。福ねずみというてな、白い白いねずみじゃったそうじゃ。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2013-5-25 14:00 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 松岡利夫(未来社刊)より |
出典詳細 | 周防・長門の民話 第二集(日本の民話46),松岡利夫,未来社,1969年10月20日,原題「福鼠」,採録地「玖珂郡、熊毛郡」,話者「難波安人、三浦幸蔵、高田ヨシ」 |
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