むかしむかし、広島の安佐郡八木というところに浄光院というお寺があって、そこには虚空蔵さんという小さな木像が祀ってあった。この虚空蔵さんは、病気も治すし、お参りすればお金も儲けさせてくれるという、大層ありがたいもので、近在でも評判だった。
ところで、この里には一人の男の子が住んでいた。この子の家は百姓であったが、お参りにきた人々のあとをついて行っては、虚空蔵さんのありがたいお話を聞いているうちに、虚空蔵さんを独り占めしたいと思うようになった。それというのも、男の子は百姓仕事が大嫌いだったので、虚空蔵さんに頼んでお大尽にしてもらおうとしていたのだった。
男の子は、夜中にこっそり浄光院に忍び込み、虚空蔵さんを背中の駕篭の中に放り込むと、一目散に山を下りはじめた。ところが、背中の虚空蔵さんが急に重くなり、男の子は道の真ん中に倒れこんでしまった。しばらく泣きわめいていると、通りかかった里のきこりが人を集め、一心に祈り続けて男の子を助けてくれた。そうして虚空蔵さんは元に戻された。
しかし、男の子はまだあきらめていなかった。何日か後になってまた夜中に虚空蔵さんを持ち出したが、やっぱり山の中腹までくると両手が痺れ、また体が動かなくなってしまった。
今度は虚空蔵さんが憎らしくなってきた男の子は、虚空蔵さんを縄でぐるぐる巻きにして思いっきり引っ張り出そうとした。ところがびくともしないどころか、逆に虚空蔵さんに引き寄せられ、寺の柱に頭を思いっきりぶつけてのびてしまい、そのまま石になってしまった。
父親は、全国あちこちから偉い坊さんたちを呼んで助けを乞うたが、どうやっても息子は元には戻らなかった。仏の顔も三度といって、どうしても言うことを聞かない子供には、「虚空蔵さんの石になっても知らんでよ」と言って戒めるのだという。
(投稿者: kokakutyou 投稿日時 2012-8-17 1:45)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 垣内稔(未来社刊)より |
出典詳細 | 安芸・備後の民話 第一集(日本の民話22),垣内稔,未来社,1959年11月25日,原題「浄光院の虚空蔵さん」,採録地「安佐郡」,話者「米尾広吉、辻治光」 |
場所について | 虚空蔵菩薩像は広島市安佐南区八木の山中にある(地図は適当) |
このお話の評価 | 8.00 (投票数 6) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧