昔々、ある村に太郎という男の子がいた。この太郎、ちょっと変った子で、いつも雲などをぼんやり眺めていた。もうそろそろ、おっとうやおっかあの仕事の手伝いをしてもいい年頃だったが、太郎は日がな一日、ブラブラしているだけだった。
あるよく晴れた日のこと、朝から家でゴロゴロしている太郎を見かねて、おっかあは太郎に山に草刈りに行くように言った。
そこで太郎は、この日珍しく山へと出かけた。山の上からは海がよく見え、海面は日の光を反射してキラキラ輝き、それはなんとも綺麗だった。太郎は草刈りのことなどすっかり忘れて、海を眺めていた。
心地よい秋風に吹かれ、太郎はいつしか山の上でうたた寝をしていた。するとどこからか、「チャリン、チャリン」という妙な音が聞こえて来る。太郎が目を覚まし、辺りを見回してみると、なんとネズミたちが小判を背負いながら山を登って来たのだった。
太郎が見ていると、ネズミたちは持ってきた小判を野原に並べ始めた。そして小判を全部並べ終わると、もと来た道を戻って行くのだった。後には、野原一面に敷き詰められて小判だけが残った。
小判は海の光に当たり、その色は赤になったり、青になったり、または金になったりと、様々に変化した。太郎は、この美しく光る小判に目を奪われ、小判の山をただじっと眺めているのだった。
やがて日が暮れると、ネズミたちがまた山の上にやって来た。そして敷いてあった小判を担ぎ上げると、また山を下って行ってしまった。太郎も、ネズミたちの小判の虫ぼしが終わったので、家に帰ることにした。
ところがその夜、太郎が家にいると何者かが家の戸を叩く音がする。おっとうとおっかあが出てみると、そこには昼間のネズミが立っていた。ネズミは、太郎のおかげで猫にも襲われず、無事に小判の虫ぼしが出来たので、そのお礼がしたいという言うのだった。そして、お礼に小判を数枚置いて帰ってしまった。
こうして太郎は、ネズミたちから小判をもらったが、その後の太郎は特に変わった様子もなく、相変わらずブラブラしていたそうな。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2011-12-3 9:15)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 松谷みよ子(講談社刊)より |
出典詳細 | 日本のむかし話3(松谷みよ子のむかしむかし03),松谷みよ子,講談社,1973年11月20日,原題「小判の虫ぼし」,採録地「東北地方」 |
備考 | 採録地は転載された本(日本の民話09,松谷みよ子,角川書店,1973年11年25日)で確認 |
本の情報 | サラ文庫まんが日本昔ばなし第24巻-第117話(発刊日:1978年9月18日)/二見書房まんが日本昔ばなし第9巻-第36話(発刊日:2006年4月18日) |
サラ文庫の絵本より | 絵本巻頭の解説には地名の明記はない |
このお話の評価 | 8.00 (投票数 6) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧