昔、熊本県の八代湾(やつしろわん)に面した漁村に、母とまだ幼い子供が住んでいました。父親は出稼ぎに行ったきり、二人暮らしが寂しいのか子供は夜になるとぐずるのでした。
もちろん母親も、なかなか戻ってこない父親の帰りを心待ちにしていました。江戸から便りもなく不安にかられた母親に、近所のおかね婆さんも気にかけてくれましたが、不安は募るばかりでした。
ある晩、なかなか泣きやまない子供に「江戸のおとっつあんを見せてやる」と言って、母親は子供を高々と持ち上げ、八代湾に見える不知火の灯りを見せました。不知火(しらぬい)とは、この辺りの海で夜になると見える、不思議な灯りの事です。その晩は、いつもより沢山の不知火が見えて、子供は「江戸の灯がいっぱいだ、江戸の父親が帰ってくる」と大喜びでした。
真夜中、眠っていた母子の家の戸口を叩く物音がしました。そこには待ちわびていた父親が、お土産をいっぱい持って立っていました。「早く顔を見たくて、夜道を歩いて帰って来た」という父親に、母親はそっと涙を流しました。
(紅子 2012-5-9 0:13)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 熊本県 |
場所について | 不知火周辺(地図は適当) |
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