昔、阿蘇の根子岳(ねこだけ)のあたりを一人の若者が旅をしていました。
すっかり暗くなってしまった頃、ススキ野原でどこからか人の声が聞こえてきました。若者が声のした方へ歩いていくと、一軒の立派なお屋敷がありました。
若者は一晩の宿を借りようと、お屋敷に入っていきました。すると女の人が現れて、布団が用意されている奥の座敷に案内してくれました。若者は「ご飯の前にお風呂に入るように」と促され、喜んで風呂場へいきました。
風呂場には、風呂焚き係の別の女がいて、若者の顔を見た途端「はやくここから逃げてください」と言いました。この女は、5年ほど前に若者の家の隣にいた猫でした。女は「ここで風呂に入ったり飯を食ったりすると、猫になってしまう」と、若者に言いました。
若者はいそいで屋敷から逃げ出しましたが、それに気が付いた他の女たちが、お湯を入れた桶を持って追いかけて来ました。女たちは、若者を猫にしようと柄杓(ひしゃく)でお湯をまき散らしました。
若者は、崖の上から浴びせられるお湯をかわしながら、どうにか逃げ切ることができました。でも、お湯のしぶきがかかった耳の後ろには、猫の毛がフサフサと生えていました。
(紅子 2013-10-20 1:30)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 荒木精之(未来社刊)より |
出典詳細 | 肥後の民話(日本の民話27),荒木精之,未来社,1960年06月30日,原題「ねこの王様の家」,採録地「阿蘇郡草部村」,話者「井上一恵」 |
場所について | 阿蘇山の根子岳(ねこ岳) |
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