昔、重兵衛という大変信心深い男がいた。重兵衛の畑の近くには、肩を寄せ合うように並んでいる地蔵さまがあり、毎日重兵衛はその地蔵さまを拝んでから畑に行くことが日課だった。そんなある夜、重兵衛の夢枕にあの肩掛け地蔵さまが現れ、「信心深い重兵衛よ、何か不足の物があればなんでも貸してあげよう。欲しいものの名を言い、わしらの肩の間をくぐれば、欲しいものが出てくる。」
翌朝、重兵衛は肩掛け地蔵さまの所へ行ってみた。しかし、どう見ても肩の間はくぐれそうにない。そこで「新品の鍬を貸してほしい。」とお願いした。すると、不思議と肩の間をくぐり抜けられた。抜け終わると本当に新品の鍬が出てきた。重兵衛はその鍬で畑仕事を済ませ、丁寧に洗い、肩掛け地蔵さまに返しにいった。すると鍬は、地蔵さまの肩の間に吸い込まれていった。
数日後、重兵衛は地蔵さまに今度は「明日寄り合いがあるので、お膳とお椀を貸してほしい。」とお願いし、肩の間をくぐった。すると見事なお膳とお椀がいくつもでてきた。翌日、重兵衛の家で寄り合いが開かれた。集まった村人たちから、見事できれいなお膳とお椀を大変珍しがられた。そのお膳とお椀を見ているうちに、重兵衛の顔つきが変わり「1つだけなら、返さなくてもいいだろう。」と思いはじめ、お膳の一式を天井裏に隠してしまった。
そして、その翌日何食わぬ顔の重兵衛は、地蔵さまにお膳を全部返すふりをした。幾日かして重兵衛は、「今度は餅をついて食いたいので、臼とキネを貸してほしい。」とお願いし、肩の間をくぐろうとした。しかし、どうやってもくぐることができなくなった。その時肩掛け地蔵さまから「重兵衛よ、まだ貸したものを返しておらんじゃろう。」という声がした。重兵衛は急いで隠したお膳を地蔵さまにかえして、一生縣命に詫びた。だが、二度と肩掛け地蔵さまからはなにも貸してはもらえなかった。それでも重兵衛は、肩掛け地蔵さまの信心を忘れなかったという。
(投稿者: マニアック 投稿日時 2011-7-26 21:10 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 富山県 |
場所について | 中新川郡立山町日中の肩掛地蔵(この辺りか?) |
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