昔ある山奥の村に、とても自分勝手でわがままで、生意気な若者がいました。
夏のある日、若者は「野良仕事なんてコツコツやってられるか」と、村を出て行きました。町へやってきた若者は「偉そうに振る舞えて割りの良い仕事」をしようと、呉服屋や大工などの仕事につきました。
しかし、仕事をはじめて数日しか経たないうちに、若者は「俺を店主にしろ」とか「大工の棟梁を替われ」とか、生意気ばかりいうものだから、どこへ行ってもすぐに追い出されてしまいました。
やがて秋になった頃、若者は峠の大きな樫木(かしのき)の下へやってきました。若者は「世の中、間違っている」と、町での事を愚痴りました。若者は、樫木を怒鳴りつけながら「こんな大きな木のくせに小さい実なんかつけてる。お天道様のする事も間違っている」と、木の幹を蹴りました。
すると、樫の実が若者の頭の上に落ちてきました。その様子を黙って見ていた百姓の爺さんが「もしも樫の実が大きかったらお前は死んでいたはずだ、お天道様のする事に間違いはない」と、若者を諭しました。
百姓の爺さんは「町ですぐに呉服屋の店主になろうとしたり、大工の棟梁になろうとしてもそれは身勝手な考えというもんだ」と、若者に言い聞かせました。
それからの若者は、もう生意気な事も言わなくなり、自分の村で真面目に野良仕事をするようになりましたとさ。
(紅子 2013-9-24 0:14)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 稲田和子(講談社刊)より |
出典詳細 | 笑いころげた昔,稲田和子,講談社,1974年10月12日,原題「かしの実となまいきな男」,採録地「鳥取県智頭町」 |
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