No.1166
あかござか
赤子坂

放送回:0735-B  放送日:1990年02月03日(平成02年02月03日)
演出:阿部幸次  文芸:沖島勲  美術:阿部幸次  作画:上口照人
写真あり / 山梨県 ) 11785hit
あらすじ

昔、昔、幾昔も前の事、甲州と信州とで戦をしておった。

清春のあたりは信州に近いから、いつも攻めたり攻められたりと大変じゃった。そのうち、信州の大河原という所のお殿様が戦に負けて、お城を敵に焼かれてしもうた。そこで、お城で働いていた乳母が、お殿様の子供でまだ赤ん坊の小さい子供を抱いて、幾人かの家来衆に守ってもらって逃げ延びた。

国界橋の辺りから甲州に入って柿の平の辺りまで逃げ延びた。柿の平の辺りは見晴らしもよく住み良さそうであったが、敵に見付かり安かろうと深沢の沢に一行は下った。沢には、大きな穴が幾つも空いている岩が有って、身を隠すには格好の場所であった。「おお、飲みっぷりの勇ましい事!」乳母も赤子に乳を含ませながらほっと喜んだ。こうして乳母たちは一先ず深沢の沢に身を落ち着ける事が出来た。

追手が厳しく詮索していると言うて、昼間っから出歩くわけにもいかず、落ち武者たちは夜になると、こっそり洞窟を抜けだして近くの村へ出かけ、百姓家から鶏や米なんぞを盗み出して、それを煮炊きして食いつないだ。乳母も乳代わりに粥を良く冷まして、赤子の若君に差し上げた。ぼうやは良い子だねん寝しな、この子の可愛さ限りなさ、天に昇れば星の数、七里ガ浜では星の数・・乳母は暇を見ては赤ん坊にこうした子守唄を唄うのだった。

洞窟での緊張した生活は日一日と過ぎて行った。そんなある日の事・・「誰かおらぬか」乳母の呼び声が空しく洞窟に響いているばかり。家来衆は主君の赤子のお守り役に見切りをつけたのか、乳母と赤子を洞窟に残したまま、何処ともなく逃げて行ってしもうたのじゃった。

家来たちに去られて、乳母は一人途方に暮れた。赤子一人を置いて食べ物を探しに出かけるのは、随分躊躇われたが、赤子がひもじがって泣くので、とうとう決心せざるを得なかった。物乞いの一人になり済まして、村へ食べ物を探しに出かけることにしたのじゃった。乳母は、沢の上り淵から折ってきたこぶしの花を赤ん坊の枕元に置いた。目を覚ました赤ん坊が、少しでも寂しさを紛らせてくれればとの、心づもりじゃった。

しかし、落ち武者狩りをする追手は諦めてはいなかった。沢に夕暮れが迫ったころ、敵方の追手の一人がとうとう、乳母と赤子が身を隠す洞窟の辺りまで迫ってきた。「どうやらこの辺りにも人の気配はないようじゃな・・誰かいるのか?」洞窟から立ち去ろうとしていた男が、かすかだが確かに洞窟の中に漂ってくる何かの匂いを嗅ぎつけた。

それは白粉済ます女性の匂いに他ならぬとすぐさま思い込み、洞窟の中へ踏み込んでいった。「こぶしの花じゃ、白粉の匂いと思ったのは此の花のにおいであったか・・早合点であった!しかし、なぜこんな所に??」と男は手を伸ばしかけて花の下に赤子を見つけた。この赤子は紋付の産着を着ていたが、確かに大河原の殿様の紋であった。

「大手柄じゃ!!大河原の殿様の子供を見つけたぞ!!」と男は泣き叫ぶ赤子を横抱きにし、夢中で主君のもとへと連れ去って行った。洞窟の辺りには、赤子が激しく泣く声が響くばかりであった。洞窟の辺りには、蹴散らされたコブシの白い花が、そうして洞窟の辺りには、泣き続ける赤ん坊の声がいつまでも木霊となって残った。

戻ってきて事情を悟った乳母は悲しみのあまり、そのまま深沢へ身を投げて死んでしもうたそうな。今でも、雨が降る晩に赤子が連れ去られた洞窟の坂道を通ると、途切れ途切れに赤ん坊の泣き声が聞こえてくるという。それからというもの、この坂を赤子坂というようになったという事じゃ。

(投稿者: aiel 投稿日時 2011-8-28 22:57 )


ナレーション常田富士男
出典山梨のむかし話(日本標準刊)より
出典詳細山梨のむかし話(各県のむかし話),山梨国語教育研究会,日本標準,1975年06月10日,原題「赤子坂」
備考舞台は姥が懐(うばがふと)との事。
現地・関連お話に関する現地関連情報はこちら
場所について赤子坂(姥が懐周辺)
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地図:赤子坂(姥が懐周辺)
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※掲載情報は 2011/8/29 2:01 時点のものです。内容(あらすじ・地図情報・その他)が変更になる場合もありますので、あらかじめご了承ください。
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コメント一覧
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ゲスト  投稿日時 2016/5/12 15:19
どんこは、悪戯っ子と認定します。
ゲスト  投稿日時 2016/4/26 9:52
母乳が出るということは乳母にも子供がいる筈だし
夫もいる筈だ。
ならば若様にみずぼらしい服装をさせ、高貴な身分を証明させる物は
すべて処分し、乳母の家族と共に他の場所へ脱出する道もあったはずなのに。
ゲスト  投稿日時 2016/4/3 2:45
花を置いたばっかりに…
乳母も無念だったでしょうね
のりくん  投稿日時 2013/1/5 9:58
佐久市に問いあわせてみました。

質問内容:まんが日本昔ばなしで『赤子坂』というお話があります。

おそらくは武田信玄と村上義清の戦争が舞台になっていると思いますが、
敗れた信州側の『オオガワラ』お殿様というのが誰のことか分からなかったのですが、
佐久市界隈でオオガワラと言いますと大河原峠のことかと思いますが、
この一帯を治めていた村上義清の部下の武将はいたのでしょうか?

回答:お問い合わせいただきました件について

 お世話様です。
 お問い合わせいただきました件について、昨年末と同じく
文化財課に問い合わせましたところ、下記のとおりです。

?「オオガワラのお殿様」に関する伝承は、佐久市には残っていません。
?「オオガワラ」というのは依田窪地域(長和町・武石村付近)を
指すのではないでしょうか。
?武田信玄の戦にまつわる伝承については、上小地域(上田・小県郡地域)
の方が多いので、そちらの上田市・東御市などに問い合わせた方が分かること
が多そうです。
?佐久市近辺にいた村上義清方の武将というと、「芦田氏」がいたが、これも
現在の立科町が拠点なので、佐久市界隈を治めていたとは言い難いです。

とのことです。よろしくお願いします。

 佐久市役所庶務課 XX
 〒385?8501
 佐久市中込3056番地
 電話 0267-62-2111(内線399)
 FAX  0267-63-1680
のりくん  投稿日時 2012/10/17 21:59
ああ、確かに戦国時代ならば村上義清と武田の戦争で間違いないでしょうね。
ただ村上義清は当時北信と東信をおさめていたので南信はほとんど関係ないはずです。
村上義清関連で『オオガワラ』というと大河原城ではなくて佐久(東信)にある
『大河原峠』の界隈を指していたのかもしれません。

村上義清の部下に『保科』という一族がいます(徳川時代に活躍した保科正之のご先祖様)が、彼らの家紋を調べてみたら『梶の葉』でした。
『赤子坂』の終盤、赤子の服に梶の葉の家紋があって悲劇の決め手になってしまうシーンがありましたから、おそらくはオオガワラのお殿様というのは東信は佐久地域大河原峠の豪族保科一族(もっとも保科一族はどちらかというと高遠で有名ですが)か望月一族なのではないでしょうか?
梶の葉の紋自体は保科一族のみならず
諏訪一族や諏訪神社の紋にもなっていたはずです。
KK  投稿日時 2012/10/17 19:37
大河原は、長野県下伊那郡大鹿村大河原の事だと思います。赤子坂は、今の山梨県北杜市長坂町中丸赤子坂、上の地図の姥が懐の下にあります。そのころは、甲斐の武田晴信と信濃の村上義清が争っていた頃の話です。地元では、信州大河原の豪族は香坂家ではなく真田家と伝わっているそうです。
のりくん  投稿日時 2012/10/17 10:37
長野県と山梨県の境目あたりに『新国界橋』があり、近くにレストラン『国界』もありますのでおそらく『オオガワラ』の残党が通ったのはこの辺なのだろうということは想像できますが、
信州の『オオガワラ』というのがよくわからないのですね。
ネットでちょっと検索してみると『大河原』関連のお城は下伊那の大鹿村(映画『大鹿村騒動記』の舞台になった村です)にあるそうで、近くの福徳寺付近はのりくんも休日などに通過する(近くに『アルプカーゼ』という有名なチーズ牧場があるのでそこにチーズを買いに行きます)から場所は分かるのですが、

この地域は地理的に昔から愛知県など中京文化圏と戦争したり交易していた場所なので、仮に物語の時代背景が戦国だとしても
残党が逃亡するならば名古屋方面に行くと思いますし、そもそも大河原城の香坂一族は南北朝対立時代のお殿様であって戦国時代とは関係ないはずです。

長野県は北信地域、東信地域、中信地域、南信地域に大別できますが、北信は新潟県とのつながりが強く、東信は群馬県、南信は愛知県、そして中信が山梨県とつながりが強いのでおそらくは中信に『オオガワラ』関連の豪族がいたんじゃないかと思えるのですが、よくわかりませんでした。
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