昔、奄美の与論島のある家に一人のよく出来た嫁がいた。この嫁は火の始末に熱心で、毎朝火を使った後、燃え残りの炭は火消し壷へ入れ、竈(かまど)の前に水を入れた洗い桶を置いてから畑へ出かけていた。
ある日嫁が畑から帰ると何か家の空気がおかしい。家の中を見回すと全身赤ずくめの小さい老婆が竈の上の棚に居る。老婆は自分を火の神様の火玉(ひーだま)と言い天に帰りたいが、嫁がいるため天に帰れないという。嫁がどうすれば天に帰れるのかと問うと、火玉は自分の言うとおりにしろと言う。その時火玉の目が怪しく輝き、それを見た嫁は火玉の言いなりとなってしまう。
火玉は嫁に「ホーハイと唱えながら家の屋根の四隅から萱を抜き取り、それを竈の前で燃やせ」と言いつける。嫁が言いつけどおりにそれを行うと、竈の火はたちまち大きくなり家を燃やしそうになるが、火玉はそれを見て喜び出す。
その時、萱から火花が飛び、その火花が顔に当たった嫁は我を取り戻し、いつも竈の前に置いていた洗い桶の水を掴むと火玉にぶっかける。 水を浴びた火玉は溶けて消え去り、家は火事にならずに済んだ。
今でも与論島では火事の時、男が「ホーハイ」と叫ぶと火事が収まるが、女がそう叫ぶと火事が大きくなると言い伝えられている。また女が生涯に三度火事を起こすと、その女は火玉になると信じられている。
(投稿者: はんぺん 投稿日時 2012-2-4 23:29 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 瀬川拓男(角川書店刊)より |
出典詳細 | 神々の物語(日本の民話03),瀬川拓男,角川書店,1973年10年25日,原題「火の神の火玉」,伝承地「沖縄地方」 |
場所について | 火の神を祀っている場所(チヂ岬) |
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