昔々、二人の旅人が旅をしていた。
一人の名は大工と彫刻の名人、左甚五郎(ひだりじんごろう)。もう一人の男の名は絵の名人で知られる狩野 法眼(かのうほうげん)と言った。
しかし長旅はしんどい。甚五郎は、近くにあった木で瞬く間に見事な馬を作り上げると、驚いたことに彫り物の馬は見事な馬になり、いなないたかと思うと走り出した。
「どうじゃ~お主にも一匹作ってあげようか」と言われ、しゃくにさわった法眼は、「けっこう」とばかりに、なにやら筆をとりだして紙に馬の絵を書き出した。するとどうだろう。法眼が紙に向ってぷうぷう息を吹きかけると・・・紙の絵の馬が動き出し、ぽーんと絵から本物の馬が飛び出してきた。
こうして、それぞれ馬で旅を続けていると、二人の前に河が立ちふさがった。紙で出来た法眼の馬は水を怖がって河に入らない。仕方が無いので馬を担いで渡ることにした。法眼をよそに、甚五郎の馬はざぶざぶと平気に河を渡っていたが、途中でざぶんと水にもぐったかと思うと、馬はみるみるうちに流されてしまう。これは、木は軽いので水に浮いて流されるためだった。「木で出来た馬は流される運命じゃの~♪」と愉快がる法眼。
なんとか川岸にたどりついた2人。そこへ突風が吹いてきて、法眼は馬と一緒に空高く飛ばされてしまった。「いくら立派な馬でも紙で出来た馬じゃのう~」と甚五郎。
宿に着いた甚五郎。すると風に飛ばされた法眼と馬が、宿の前の木に引っかかってぶら下がっていた。法眼は木から下り、馬に息を吹きかけると、馬はまた紙の絵に戻ってしまった。
その夜のこと。甚五郎は馬を宿の前の木につないでいたが、その馬が突然の雷に打たれてしまった。雷に打たれた馬は焼けてしまい、可哀想に足一本残すだけとなり、甚五郎は悲しんだ。
さて、翌朝、先に宿を出た甚五郎に気がついた法眼は、紙から馬を出して甚五郎の後を追おうとするも、そこでハッとした。昨夜の雨漏りで、紙が濡れてしまい、絵の馬はにじんでいる。これでは馬が出て来るはずがない。法眼は猛然と甚五郎を走って追いかけていった。
それからまた2人は仲良く歩いて旅を続けたと言う。
(投稿者:マルコ 投稿日時 2014/3/5 13:30)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 兵庫県 |
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