『あまんじゃくの星取り石』― 岡山県 ― 再話 六渡 邦昭
むかし、むかし。
※美作の国(みまさかのくに)、今の岡山県(おかやまけん)の山ん中に、あまんじゃくという、いたずらな子鬼(こおに)が棲(す)んでおったと。
誰かが、それは白いといえば黒いというし、そんなら黒だといえば白だといいはる。ああいえばこういう、こういえばああいう、しょうのない子鬼だったと。
ある晩のこと、そのあまんじゃくが、あっちへ跳(と)びはね、こっちへ跳びはねしているうちに、二上山(ふたかみやま)のてっぺんまで来てしまったと。
この山は、晴れた日の昼間なら、美作、備前(びぜん)、備中(びっちゅう)はいうまでもないこと、それよりずうっと向こうの、十国(じっこく)もの国々が見渡せるというたいした山だ。
けれども夜のことだったから、あちらの国こちらの国のかわりに、ひろい夜空いちめんに、星がきらきら、きらきら輝(かがや)いていたと。
あまんじゃくは、このときは思わず知らず素直(すなお)になって、
「きれいだなあ」
と、ためいきをもらして見とれておったと。
青い星もある、赤い星もある、橙色(だいだいいろ)のも緑色のも見える。暖(あたた)かく光る星もあれば、冷たく光る星もあり、そのどれもが手をのばせば届きそうなほど近くにまたたいていたと。
しばらく眺(なが)めていたが、ふっとわれにかえって、
「へん、俺(おれ)さまとしたことが、なんだこんな星、たたき落としてやる」
といって、山のてっぺんでピョンピョン跳ねて、星をつかもうとしたと。が、いくら跳ねたってつかむどころか、手の先に触(ふ)れもしない。
「へん、箒(ほうき)がありゃぁ、取れらあ」
というと、山をふっとんで下りて、箒をもって来た。箒を差し上げて空の星々を掃(は)き落とそうとしたけれど、箒の先に触れもしない。
「ようし、そんなら石を積(つ)み上げて、取っちゃる」
そういうと、あまんじゃくは、そこいらじゅうの石をかき集めては積み上げ、かき集めては積み上げ、まあ、汗を流して高く高く積み上げたそうな。
もうよかろうと、石積(いしづみ)みのてっぺんへ登り、箒を差し伸べてみたがまだ届かん。
「ええい、まだ足らんか」
といって、今度は村の方まで駆(か)け下りていって、石という石を、拾い集めてはかつぎ上げ、ほじくり出してはかつぎ上げして、積み上げた石のてっぺんに、また、よじ登ったと。
「さあ、掃き落しちゃる」
と、うんと背伸(せの)びをして箒を差しのばした。と、そのとき、
「コケコッコー」
と、一番鶏(いちばんどり)が啼(な)いたと。
ハッとして、あまんじゃくがあたりを見わたすと、東の空が白(しら)んできて、はや、星々の輝きは失(う)せていったと。
「ええ、くやしい」
あまんじゃくは、積み上げた石のてっぺんで、涙をふりとばし、おうおう泣きながら、じだんだを踏(ふ)んだと。
そしたらせっかく積みあげた石が崩(くず)れて、ガラガラ音たてて谷間(たにま)へ転げ落ちたと。
それでいまでも、そのあたりには、山のてっぺんから谷底(たにそこ)まで、大きい石、小さい石がゴロゴロ転がっている。
あまんじゃくの星取り石とはこのことだ。
むかしこっぽり杵(きね)のおれ。
※美作の国:現在の岡山県美作市
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