http://www.mukashi.info/shiryoshu/tabibitouma_shiryo_01.html 旅人馬は、「今昔物語集」や「宝物集」などに記された大変古い昔ばなしである。これらの古文献に記された内容と今日語られている話では多少性格が異なるが、長きに渡り語り継がれる間に、それぞれの土地の風土や慣習に合わせてゆるやかに変化したのであろう。
日本各地にいくつもの類話があるなかで、今回は鹿児島県で語られている旅人馬を取り上げたが、主人公を例にとるだけでも、僧・尼・和尚・武者修行の男・旅人など様々である。
話の内容についても同様で、鹿児島県や岡山県など西日本においては今回の話のような逃鼠譚であるが、それに対して福島県や秋田県、岩手県など東北地方においては主人公が悪事を働き神罰を受けて馬や牛に姿を変えられてしまうという応報譚である。逃鼠譚では馬に姿を変えられた同行者を人間に戻し逃げ出すことで話が終わるが、応報譚では旅人を馬にしようとした婆が逆に、旅人の機知により馬に変えられてしまうことが多い。旅人馬のように人間が動物に姿を変えられてしまう話はヨーロッパや中国には多く残っているが、日本の昔ばなしとしては珍しいものである。
この昔ばなしは「今昔物語集」にも登場大変古いものですが、明治時代の人気文学である「高野聖」の著者である泉鏡花が、その小説の題材として取り上げたことでも有名です。主人公たちを馬にしようとした山姥は、その後も不幸な旅人たちを馬にしていたのでしょうか。悪人のその後が語られていないこの話は、色々な想像を膨らませてくれます。