鏡が貴重品だった、昔々のお話です。ある山奥の村に、太郎作と女房が仲良く暮らしていました。
太郎作はたいへんな親孝行で、ある時、お殿様から親孝行のご褒美をいただくことになりました。太郎作の「死んだ父親に会いたい」という望みを叶えるために、お殿様は鏡をプレゼントしてくれました。
鏡に映った太郎作の顔は、死んだ父親にそっくりで、まるで父親に再会できたようでした。太郎作は、鏡を女房にも内緒で家の納屋に隠しておいて、いつもこっそり父親との再会を楽しんでいました。
ある時、太郎作の行動に不信を抱いた女房が、納屋の鏡を見つけました。鏡を覗いてみると、そこには女がいました。鏡の中の女はとても不細工でしたが、それでも女房に内緒でこっそり女を納屋に隠していたと思って、激しく嫉妬しました。
女房と太郎作は、鏡の事で大ゲンカになりました。太郎作にとっては、死んだ父親との再会グッズであり、女房がなぜにそんなに怒るのか、ちっとも理解できませんでした。
ますますエスカレートする夫婦喧嘩に、たまたま通りかかった尼さんが仲裁に入りました。そこで二人は、納屋には女がいるのか死んだ父親がいるのか、尼さんに確かめてもらうことにしました。
尼さんが納屋の鏡をのぞき込むと、そこには自分の姿が映りこみました。それを見た尼さんは「確かに中には女がいるけれど、もう頭を丸めて尼になっているので、亭主の浮気は心配ないよ」と言いました。
太郎作も女房も尼さんも、鏡という物をしらない、鏡のない村の話でした。
(紅子 2013-9-23 1:41)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 松岡利夫(未来社刊)より |
出典詳細 | 周防・長門の民話 第二集(日本の民話46),松岡利夫,未来社,1969年10月20日,原題「みやこ鏡」,採録地「厚狭郡、豊浦郡」,話者「吉岡豊丸、山下千三」 |
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