むかし、上州は川場村の立岩(たついわ)に清岸院というお寺があり、そこの和尚さんに拾われて、寺で育ったおのぶという娘がいた。
おのぶが9歳のある日、裏山に薪をとりに行くと、辺りが急に暗くなり強い風が吹き出した。やがて地響きのような足音とともに、大きな赤鬼がおのぶの前に現れた。赤鬼はおのぶを見て言う。「こえーげ?たまげたげ?(怖いだろ?たまげただろ?)」
普通の子供なら、驚いて腰を抜かしてしまうのだが、気の強いおのぶは赤鬼をにらみ返し、「うんにゃ、こわくねぇ!!」と言い返す。おのぶの気丈なところが気に入った赤鬼は、自分が持っている鬼の力をおのぶに与えた。こうして、おのぶは鬼のような力を持つ大女になった。
おのぶの怪力のうわさは村中に知れ渡り、ある日おのぶが川で洗濯をしていると、男がやってきておのぶに力比べを挑んだ。ところが男は、おのぶの怪力の前に簡単に吹き飛ばされてしまった。この男、実は近くの山に住む山賊の棟梁だったから大変なことになった。
その夜、手下の山賊を大勢引き連れて、おのぶに仕返しするために清岸院に攻めよせてきたのだ。ところが山賊が束になってかかっても、おのぶの怪力の前には歯が立たない。とうとうコテンパンにやっつけられ、ほうほうの体で山に帰って行くのだった。
それから8年の歳月が経ち、おのぶが17になる秋、赤鬼は旅人の姿に化けて再びおのぶの前に現れた。実はこの赤鬼、初めて山でおのぶに会った時から、おのぶのことが好きだったのだ。
赤鬼はおのぶに言う。「おのぶさん、ワシの嫁になれ。」
「エーー!!」とおのぶが驚いていると、赤鬼は照れ隠しをするように言った。「いや、あの、その・・・俺と力比べをしてくれ!!」こうして、2人は近くにあった丸太を取り、力比べをすることにした。
2人は渾身の力を込めて丸太を押し合う。するとなんとしたことか、赤鬼はおのぶの力の前に吹っ飛ばされてしまった。これにはさすがの赤鬼も「おのぶ、俺より強くなってしまった。」と言って泣くよりほかなかった。
今でも清岸院には、おのぶの洗濯石と言う大きな石がある。おのぶは毎日この大石を頭の上にヒョイとの乗せ、山門の下の小川に洗濯に行っていたそうだ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2011-8-27 9:18 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | おのちゅうこう(未来社刊)より |
出典詳細 | 上州の民話 第一集(日本の民話20),小野忠孝,未来社,1959年06月30日,原題「鬼から貰った力」,採録地「利根郡」,話者「鶴淵螢光」 |
場所について | 清岸院 |
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