昔、山寺の近くの茶店にお梅という婆さんが、ひとりで茶店を切り盛りしていた。
近頃、お梅婆さんは晴れ空を見ては、涙を流すことが多くなり仕事も手に付けられなくなっていた。またある日は、太陽に雲が懸かっただけで叫び声を上げ、道行く人々を困惑させた。
そんな、お梅婆さんの姿を何度も見ていた寺の小僧は、何か訳があるのではと思い寺に帰って和尚にお梅婆さんのことを話した。お梅婆さんのことは薄々聞いていた和尚は、翌日、茶店に行きお梅婆さんに空を見ている訳を尋ねた。
お梅婆さんは「長男が傘屋へ奉公に出ているのだが、晴れの日には傘は売れない。長男のことを思うと晴れの日でも涙が出るのだ」と、泣きながら話した。
それを聞いた和尚は「世の中悪いことばかり続くわけではなく良いこともある。また雨の降る日があるのではないか」と、お梅婆さんを慰めた。和尚の言葉を聞いたお梅婆さんは、晴れの日に涙を流すことがなくなった。
その後、村に久々の雨が降った。和尚は、さぞお梅婆さんは喜んでいるだろうと思い、小僧を連れて茶店に出かけた。ところがお梅婆さんは、喜ぶどころか雨空を見て涙を流していた。
お梅婆さんは、「次男が草履屋へ奉公に出ているのだが、雨が降っては草履は売れない。次男のことを思うと雨の日でも涙が出るのだ」と、泣きながら話した。
それを聞いた和尚は「親というもの心配は尽きないがこう考えてみては。晴れの日には草履が売れているから次男は喜び、雨の日には傘が売れるから長男が喜んでいると。そうしたら泣く暇がなくなる」と話した。
和尚の言葉にお梅婆さんは笑顔を取り戻し、晴れの日でも雨の日でも元気に茶店を切り盛りした。「ものは思いよう」ということですね。
(投稿者: Kotono Rena 投稿日時 2013-11-04 10:57)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 笠井典子「浪速の昔話」より |
出典詳細 | 浪速の昔話(日本の昔話 第17巻),笠井典子,日本放送出版協会,1977年05月20日,原題「お婆さんと息子」 |
このお話の評価 | 7.00 (投票数 8) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧