むかし、三河の興福寺という寺に一人の小坊さんがおった。顔のまんまるい、目のくりっとした可愛い小坊さんじゃったので、村人は 『まるか』 と呼んでそりゃあ可愛がっておった。
ところが、このまるかは大変な悪戯者で、蛙や小鳥を捕まえては悪戯ばっかりしておった。和尚は見かねて、殺生は絶対にならんと注意するのじゃが、まるかの悪戯は一向に収まらんかった。
そんなある日、和尚はまるかに蓮華寺に大切な文箱を届けるよう言いつけた。寺を出たまるかは、小高い山の木の下まで来ると、文箱を懐に入れて木に登って遊び始めた。夕方まで遊んでいたまるかは、懐の文箱が無くなっているのに気がついた。
夜になると、心配した和尚がまるかを探しにやってきた。和尚はまるかが寄り道して文箱を無くしたと知ると、すっかり怒って、懲らしめのために、まるかを木に縛り付けて帰ってしもうた。
翌朝、和尚がまるかを迎えに行くと、まるかは体中を藪蚊に刺されて死んでしまっておった。和尚は泣いて悔やんだが、死んでしまったまるかはもう生き返りはしない。
それから一年経った夏の夜こと。蓮華寺の近くの農家のおかみさんが庭で行水をつかっておったら、納屋の横から誰かが赤いほおずき提灯を下げて近づいてきた。子供の声で「蓮華寺に行くのじゃが、疲れたから休ませてくれ。」と言う。
そうして、その赤い火は楽しそうにおかみさんの周りをぐるぐる回り、「興福寺のまるか。和尚さんのお使いで、文箱を蓮華寺に届けにゃならんの。」と言って、ゆらゆら揺れながら暗い蓮華寺の森の方へ飛んでいったそうな。
その赤い火は人恋しいのか、ちょくちょく村人の前にも現れるようになった。それで村人はその火を 『まるかの人星』 と呼ぶようになった。
その火が姿を見せると、村人はその火に呼び掛けるそうじゃ。「まるかかぁ?」と声をかけてやると嬉しそうに夜空に登り、そして消えていくそうじゃ。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2013-8-25 8:14)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 寺沢正美(未来社刊)より |
出典詳細 | 三河の民話(日本の民話65),寺沢正美,未来社,1978年04月10日,原題「まるかの人星」,採録地「安城市」,採集「寺沢美智恵」 |
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