昔々、にわか芝居がとても盛んな村がありました。花見も盛大で村中の人がにわか芝居を見て楽しんでいました。
ある日、村で一番の芝居上手な老人が死んでしまいました。大勢の村人弔われたあと、その老人は真っ暗な道を歩いていました。あの世というのは真っ暗でなんも見えんところじゃろうかと思いながら進んでいくと、共のものに内輪を仰がせながら威張っている閻魔大王に出会いました。
閻魔様は閻魔王朝を抜け出して不気味な山頂でさぼっているところだったようです。ひまをもてあましていたところへ、老人がやってきたのでした。退屈しのぎに老人をいじってから帰ろうと思い浮世での悪事を鏡に映しだすことにしましたが、老人が村の所在地を述べたところ、にわか芝居で有名な村からきたことがわかりました。にわか芝居が盛んな村の噂は評判が高く、亡者の口から閻魔大王の耳にまで届いていたのです。
閻魔大王は早速演じてみよと命令します。恐さに震える老人は断りました。退屈していた閻魔大王は芝居みたさで、演じれば極楽行きの番号札を渡すぞと催促をしましたが、芝居に必要な物を浮世に忘れてきたので出来ないと答えました。それでも見たい閻魔様はどんなものだ? と聞いてきましたので、閻魔様のように立派なお面と閻魔様のお召し物のように立派な衣装だと言うと、何だそんなことか、早く言えとお面を脱ぎました。驚いたことに、お面を脱いだ閻魔様は老人と変わらないちょっと貧相なお顔で、さらに衣装を脱ぐと老人そっくりの亡者みたいな風情なのでした。
亡者のような姿の閻魔大王は老人が閻魔様のお面と衣装をつけ用意をしるのを楽しみに待っていました。いままさに演じようとしていたちょうどそのとき閻魔王朝からの使いがやってきて亡者のような大王を殴り倒してしまいました。そして大王のお面と衣装をつけた老人に向かって「早く閻魔所へお戻り下さい」と、連れ帰ってしまったのです。
こうして妙なことから芝居上手な老人が閻魔大王になり、その村のものは全員極楽へ行けるようになったということです。
(投稿者: みけねけ 投稿日時 2011-11-2 9:10)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 荒木精之(未来社刊)より |
出典詳細 | 肥後の民話(日本の民話27),荒木精之,未来社,1960年06月30日,原題「老人とえんま大王」,採録地「菊池郡隈府町」,話者「荒木にき」 |
場所について | 熊本県菊池市隈府周辺(地図は適当) |
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