昔、栃木のある村に与惣(よそう)という男が、仕事を探してやってきた。
しかし、どの家にも断られてしまい、さぎ草が咲く「さぎしょっぱら」と呼ぶ、小高い丘に小屋を建てて住むことにした。そこに住む狸たちが、与惣にいろいろと悪さをしてくるが、逆にそれが一つの楽しみでもあった。
ある夜、小便に起きると大きなキノコが生えていた。与惣は驚く様子も見せず「これが逆さまに生えていたら、腰を抜かすだろうなぁ」と言うと、キノコは逆さまになった。与惣がキノコに小便をかけると、狸は正体を現して逃げて行った。
その話を聞いた名主の四朗兵衛(しろべえ)が、与惣を雇う事にした。そんなある日、さぎしょっぱらから狸たちの声が聞こえてきた。四朗兵衛の事を、村人たちは目上の人ということで御辺(ごへん)と呼んでいたが、狸たちはなまった言い方の「ごへー」と呼んで、バカにしていた。
四朗兵衛は与惣に「この日の為にお前を雇ったんだ、この酒樽を狸たちのはらづつみに負けぬよう叩いてくれ」と言った。狸と与惣の叩き合いは夜まで続き、いつの間にか村人も参加していた。
月が高くなった頃、突然狸ばやしが止んだ。与惣は狸が心配になって、大喜びする名主や村人をおいてさぎしょっぱらまで様子を見に行った。そこには、名主の計画どおり、はらづつみを強く打ちすぎた狸が息絶えていた。
「こんな事になるなんて知らなかった」と与惣は後悔して、狸を抱いて謝りながら泣いた。与惣の泣き声は、村まで届いた。
次の日、さぎしょっぱらに建てた与惣の小屋は無く、与惣の姿もなくなっていた。ただ、さぎしょっぱらには二つの墓があった。今も、さぎしょっぱらには夏になると、空に向かってさぎ草が咲き乱れるという。
(投稿者: KK 投稿日時 2012-9-26 20:55 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 日向野徳久(未来社刊)より |
出典詳細 | 栃木の民話 第一集(日本の民話32),日向野徳久,未来社,1961年07月31日,原題「たぬきばやし」,採録地「下都賀郡」 |
場所について | 栃木市箱森(地図は適当) |
このお話の評価 | 6.67 (投票数 3) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧