昔、秩父の金沢(かねざわ)に「じへい」という働き者の炭焼きがいた。じへいの炭窯は、山奥の身馴沢のほとりにあり、一度に80俵は焼ける大窯だった。
じへいは炭焼きの名人で、昔に死んだおっとうから作り方を教わった。さらにおっとうは「火を沢に投げ込んではいけない、沢女のたたりがあるから」とも教えてくれたのだが、じへいは炭を作っている最中に、うっかり火のついた枝を沢に放り込んでしまった。
これはまずいと思いながらも、飯の用意をするため水を汲みに沢へ下りていった。すると、「ぴちゃ、ぴちゃ」と水音が聞こえ、沢の方から顔の無い女が歩いてきた。女は「寒かんべえ、寒かんべえ。おめえ、寒かんべえ。」と言いながら、じへいに近づいてきた。女がじへいの顔に手を当てると、その場でじへいは気を失って倒れてしまった。
そしてどれほどの時が経ったか、夜になりじへいが目を覚ますと、すでに窯の火は消えていた。たった1本の火くずを沢に放り込んだばっかりに、1年分の炭が灰になってしまった。
(紅子 2011-6-9 4:41)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 埼玉県の民話(偕成社刊)より |
出典詳細 | 埼玉県の民話(ふるさとの民話17),日本児童文学者協会,偕成社,1979年12月,原題「沢女」,採録地「秩父郡」,再話「権頭和夫」 |
備考 | 身馴沢(身馴川、現在は小山川) |
場所について | 埼玉県秩父郡皆野町金沢(地図は適当) |
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